2軍戦でサイクル安打のアジャ井上、シンプル思考で巻き返し期す

[ 2016年5月29日 09:40 ]

20日のイースタン日本ハム戦の延長11回、5安打目の左前打を放つロッテ・井上

 まさかサイクル安打を見るとは思わなかった。5月20日。イースタン・リーグのロッテ―日本ハム戦(ロッテ浦和)で快挙を達成したのは体重114キロの「アジャ」ことロッテ・井上だ。第1打席は空振り三振だったが、第2打席で左越えソロ。さらに中堅フェンス直撃の二塁打を放つと、左前打で王手をかけた。

 三塁打が出ればサイクルか…と思いながら見ていた5―6の9回2死一塁。井上が振り抜いた打球は高く舞上がり、ジャンプした右翼手のグラブを越えてフェンスに直撃。巨体を揺らして激走し公式戦初の三塁打をマーク。ベンチは盛り上がっていた。その一打で同点に追い付き、試合は延長11回引き分けだった。試合後、井上にサイクル安打について聞くと「いやいや、気づかなかったですよ、三塁打より(サヨナラ)本塁打で終わらせた方がいいに決まってるでしょ」と笑っていた。

 今季は3月25日の日本ハムとの開幕戦(QVCマリン)でスタメンを勝ち取り、大谷から初回に左翼線2点二塁打を放って勝利に貢献した。打撃論では常に「強い打球を打つ。甘い球を簡単に打つ。シンプルに打つ」を繰り返す。開幕直前に、初めて井上と食事をした。高校まで野球をやっていた私は長年の疑問をぶつけてみた。「“バットのヘッドを立てて打つ”っていうけど、よく意味が分からないんですけど」。すると「アジャ」は「僕も分かりません。ハハハ」と豪快に笑った。打撃は繊細な技術を要する一方で、突き詰めても7割は凡退する世界とも言える。難しく考えるより「シンプル・イズ・ベスト」という面もあるのかもしれない。そう教えられた。

 4月下旬に不振で2軍落ちしたが、「しっかり練習できるのもこういうときだけ」と前向きに練習に取り組んでいる。現在の課題は「体が前に出ない」という実にシンプルなもの。まさに、泳がされずに、引きつけて広角に打ち分けたサイクル安打だった。優勝争いを演じる1軍にも、再び「アジャ」の力が必要になるときが来るはずだ。(記者コラム・渡辺 剛太)

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2016年5月29日のニュース