中畑清氏 後輩・新井の記録誇りに思う 不器用だからひたむきに…

[ 2016年4月26日 12:30 ]

広島の新井(左)と談笑する中畑氏(14年12月撮影)

 わが駒大の後輩、広島の新井貴浩が通算2000安打にあと1本と迫っている。あれほど不器用な選手が…。つらいニュースが多い中、ほおずりしてやりたいくらいうれしい話だ。

 初めて見たのは新井が大学2年生のとき。青森県の岩木山の麓で行われたキャンプに行くと、もやしのように細い体でスイングだけは豪快な右バッターがいた。覚えているくらいだから少しは目立つ存在だったけど、タイミングは取れない。守備も下手。走る姿もドタバタしている。将来性はそんなに感じなかった。

 駒大OBの大下剛史先輩の推薦もあったと思うが、1998年ドラフトで広島に6位指名された時も、まさか2000本打つ選手になるなんて思わなかった。私だけじゃない。誰も想像しなかったと思う。

 でも、新井には素晴らしい武器があった。人間性だ。大好きな野球に対する情熱とひたむきさ。どんなきつい練習にも弱音を吐かず、泥んこになってバットを振る、ボールを追いかける。不器用な選手のそんな姿を見せられたら、監督は試合で使ってやりたくなるものなのだ。

 主砲の金本知憲(現阪神監督)がFAで阪神に移籍した03年には当時の山本浩二監督から4番に抜てきされた。指揮官に「こいつに任せてみよう」と思わせる何かがあったからこそ。何を隠そう、不器用という点じゃ私の方が上だ。1軍に定着するまで4年かかったが元気をアピールしていたら長嶋茂雄監督が使ってくれるようになった。そんな私が言うのだから間違いない。

 首脳陣や先輩からかわいがられ、後輩からは慕われる。08年にFAで阪神移籍後には私が初代を務めた労組選手会の会長になった。東日本大震災にみまわれた11年には開幕延期を要望し、これを実現。立派に12球団の選手をまとめ上げた。15年に古巣へ復帰。自らFA宣言して出ていった選手が球団やファンから温かく迎え入れられたのも人柄だ。広島に戻れなかったらここまで来られなかったと思う。

 あと1本。今は来た球を素直に打ち返す基本に忠実なバッティングができているけど、最初から打撃センスが光っていたわけじゃない。不器用な選手が人間性だけで2000本に到達しようとしてるってのが凄い。後輩を誇りに思っている。 (スポニチ本紙評論家・中畑 清)

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2016年4月26日のニュース