MLBの衝突防止ルール 現実主義と手探りと 混乱はしばらく続く…

[ 2016年4月11日 08:20 ]

 ファンの皆さんの目にはどう映っただろうか。6日のドジャース・前田健太のデビュー戦。6回無失点の好投に加え、打っても圧巻のメジャー初アーチ。華々しい一歩を踏み出すと同時に、改めて考えさせられるビデオ判定が6回裏にあった。

 パドレスの1死一、三塁のチャンス。一塁正面へのゴロは本塁転送され、タイミングは完全にアウトで、三塁走者には「アウト」の宣告。パ軍側はビデオ判定を要求したが判定は覆らなかった。

 【動画(1)下記参照】

 中継の映像を最初に見た瞬間は「セーフ」だと思った。映像を見れば分かるが、走者の足はタッチされるよりも早くホームベースに達している。

 加えて捕手の左足はブロックしている。走路は完全にふさがれていた。日本でも今季から導入された衝突禁止のコリジョン・ルールに抵触する。

 AP通信も「タッチより早くベースに触れているように映った」と伝えた。判定には3分2秒と通常より時間がかけられた。逡巡(しゅんじゅん)もうかがい知れる。

 この判断には、大リーグの「現実主義」が働いたと見るべきだ。

 14年のコリジョン・ルールとチャレンジ導入当初は、理不尽とも取れる判定が続いた。進路妨害は厳しくチェックされ、タイミングが完全にアウトでもセーフに覆るケースが目立った。例えば今回のクロスプレーになら、「セーフ」の判断が下されていたはずだ。

 現場に不満の声が渦巻いていた14年9月、大リーグ機構のジョー・トーリ氏は「もっと現実を見詰めよう。常識の範囲内で考えないといけない」と30球団と審判団に、意図的ではない進路妨害でセーフにしてはならないと通達。故障者を減らす、という本来の趣旨から逸脱し始めた新ルール運用の修正をはかった。

 トーリ宣言から2シーズン目を迎え、コリジョンに対する現実的な境界線がMLB全体に浸透した。パドレスのアンディ・グリーン監督も「あの判定に泣き言を言っても始まらない」と強く抗議はせず受け入れていた。

 【動画(2)下記参照】

 かたや、導入されたばかりの二塁への危険なスライディング禁止ルール。こちらはまだ解釈が手探り。8日のアストロズ―ブルワーズ戦。ア軍が2点を追う9回1死一、二塁で、当たりは二塁ゴロ。二塁転送で一塁走者が封殺された。カバーの遊撃手は併殺を諦めていたが、スライディングが危険として、走者と打者にもアウトが宣告され併殺で試合終了となった。

 遊撃手との接触はなかった。ベース通過後も滑り続けていたことが違反した点。MLBは「スライディング後、ベースから離れない(本塁を除く)」と定義している。導入当初は、このようにルール原文に沿って厳しく判定されることが多い。ア軍のA・J・ヒンチ監督は「ばかげている。故意でもなく、接触もなかった」と怒りが収まらず。個人的にも、今回のケースはいかがなものかと思わざるを得ない。

 殺人スライディングルールへの混乱は、もうしばらく続くだろう。リーグ全体でコンセンサスが得られるには事例と時間の蓄積が必要だ。勝負事の世界だけに初めから混乱ない公平な運用がベストだが、それを求めることこそ理想論であり、現実的とは思えない。(記者コラム・後藤 茂樹)

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2016年4月11日のニュース