メジャー登板目指し…元楽天・藤江 覚悟の渡米「息子のために」

[ 2016年4月1日 10:00 ]

DeNA時代の藤江

 米国の独立リーグ・アトランティックリーグのランカスターに所属する藤江均投手(30)がメジャーのマウンドを目指し、4月に米国へ旅立つ。「難しい挑戦になると思う。でも、息子に格好いいパパの姿を見せるまで、野球は辞められないんです」。

 DeNAを14年オフに退団し、昨年は楽天でプレーも1軍登板は4月の2試合のみ。ファームで登板がない日は夕方に練習を終えて仙台市内の自宅に帰り、楽天戦のナイターをテレビで見る。5歳の長男・龍翔(りゅうと)君に「パパ、いつ投げるの?早く投げてほしいなあ」と何度も聞かれた。期待に応えられない自分がもどかしかった。

 昨オフに2年連続で戦力外通告を受け、楽天を退団。それでも、力が落ちたとは思わなかった。妻・亜沙美さん(30)に「あなたが野球をやっている姿を見たい。どこに行っても大丈夫だから」と背中を押されて勇気づけられた。しかし、現実は厳しい。12球団合同トライアウトを受けたが、NPBで獲得する球団はなかった。新たな挑戦の場に選んだのが、米国の独立リーグだった。

 記者は藤江がDeNA在籍時に取材した。12年に52試合の救援登板で21ホールドをマーク。決して球が速いわけではないが、投げっぷりがいい。「勝敗を分ける場面で僕の一球がチームメートや家族の生活を変えてしまう。敵に弱気な姿を見せられない」。ピンチでもマウンドで笑みを浮かべ、内角を果敢に突く姿が印象的だった。

 DeNAがBクラスに低迷する中、覇気が見えない他の選手に注意することもあった。「僕が嫌われ役になってもいい。衝突もあった。勝ちたかったから。勝てば、みんな幸せになるやないですか」と振り返る。普段は関西弁で周囲を笑わせるムードメーカー。だが、それだけではない。繊細で熱く不器用な性格なのだと思う。

 米国では過酷な日々が待ち受けている。独立リーグはバスで12時間以上移動してダブルヘッダーの試合もある。30連戦以上も珍しくない。結果を残さなければ、シーズン途中に戦力外通告を受ける。開幕からレギュラーシーズン終了の5カ月間で選手の半分以上が入れ替わるという。日本とあまりに違う環境でも、「求めていた世界やと思います。ダメだったら切られる。結果を出し続けて、MLBの球団に声を掛けてもらえることを目指したい」と表情はすがすがしい。

 4月から家族と離れ、異国の地で単身生活になる。龍翔くんに伝えると、「パパと離れるのは寂しいけど…。でも、野球してくれるのがうれしい。頑張ってね」と声を掛けられた。「泣きそうになった。子ども心にいろいろ考えて出てきた言葉だと思う。正直、しんどいこと嫌いなんです。でも、息子のためだったら頑張れる。いつかは米国で投げている姿を球場で見せて、野球の楽しさを伝えられたら最高ですね」。海の向こうでの成功を心から祈っている。 (記者コラム・平尾 類)

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2016年4月1日のニュース