新たなデータ分析で進化する戦略 選手に求められる能力も変化

[ 2016年3月16日 11:20 ]

革新的なデータ分析で注目され、MLBアドバンスメディアのリサーチ・開発部門のディレクターに就任したダレン・ウィルマン氏

 【メジャーのデータ革命(下)】初めてこのイベントを取材したのは14年。当時はMLBでケガ人が急増していた時期で、パネルで話していた通り、そこから各球団は選手の疲労軽減とケガの予防に本格的に取り組んでいった。

 今年の大きなテーマは「スタットキャスト」がもたらすもの。3日目の午前、「守備の評価基準」についてのパネルがあった。81年に「スタッツ社」を創設したこの世界の重鎮であるジョン・デワン氏が語った。

 「守備力を測るデータは、長い間守備率しかなく、それでは選手の守備力の5%くらいしか測れなかった。そこにビル・ジェームズがレンジファクターを発明して20%プラス、我々のゾーンレーティングやUZRで、今は60~65%になった。そこにスタットキャストが加わった」。

 熱心なファン以外にはなじみが薄い言葉が並んだかもしれない。レンジファクターとは、1試合9イニング換算で何個のアウトに寄与したかを数字で表したもの。ゾーンレーティングはその欠点を補うため、守備範囲内の打球を正しく処理できたかを示す数値。UZRはアルティメット・ゾーンレーティングの略で、平均的な選手との比較に発展させて数値を出していく。

 マリナーズのフロントで働くカレブ・ファイファー氏は「これまで守備力の評価は難しかったが、スタットキャストならデータは豊富。アプローチは球団により異なるが、間違いなく答えはそこにある。どうしたら一番良い答えに近づけるかだ」と言う。

 戦い方も変わる。顕著な例は守備シフトだ。

 「我々の調べでは、去年、レイズとアストロズはシーズン中1400回も変則シフトを使い、レイズは23点、アストロズは20点、失点を減らせた」とデワン氏。となれば、内野手に求められるスキルも変わる。元名二塁手のアレックス・コーラ氏の指摘が興味深い。

 「シフトでは二塁手が右翼手の前で守り、三塁手が二塁手と二塁ベースの間に立つ。となると、一塁手は横にも動いてほしいし、二塁手は前進してゴロを処理するスピードが必要。三塁手はかつては打力重視で守りはルーティンのプレーさえこなせればよかったが、今では二塁、時には遊撃手のスキルも必要、ユーティリティータイプでないと」とのこと。

 大リーグ公式サイトのペトリエロ記者は、昨季、アストロズのカルロス・ゴメス外野手が高速返球で走者を刺したとき、速度は103マイル(約166キロ)だったと明かす。

 「今のテクノロジーなら、外野手がダイレクトにホームに返球するのと、カットマンを通すのでどちらが早いか、データが取れるし、プレー選択に生かせる」と言う。

 会場に集まったのは600人。中には数学の先生から、人気データサイト「ベースボールレファレンス」の経営者に転じたショーン・フォーマン氏もいた。見てくれは、申し訳ないがウィルマン氏もフォーマン氏も数字オタク風というかパッとしない。だが莫大なデータと人々をつなぐ媒介者として、球界のスターになっている。(奥田秀樹通信員)

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