甲状腺がん手術から復帰した“ホームレス大リーガー”の今季に注目

[ 2016年2月7日 08:00 ]

 大リーグのキャンプまで2週間を切った。注目している選手が1人いる。タイガースの若手左腕ダニエル・ノリス投手(22)。昨年のシーズン中にブルージェイズからタ軍へ移り、2チームで13試合に先発し、3勝2敗、防御率3・75の成績を残した。

 11年のドラフト2巡目左腕は、昨年のキャンプで意外な一面が脚光を浴びた。ホームレス大リーガー。キャンプ期間中、所有するフォルクスワーゲン社のバンで暮らす車上生活を送っていた。

 その左腕が、もう一つ衝撃の告白をしたのは昨シーズン終了後。写真投稿SNSのインスタグラムで、甲状腺がんを患っており、手術を受けることを公表した。

 10月末に受けた手術は無事終了。リハビリを終え、順調に自主トレも消化し「幸運にも100%の状態で帰ってくることができた。去年は開幕メジャーに残ることが目標だったが、今年は200イニング投げることを目指して頑張るよ」と意気込む。

 ノリスが甲状腺がんを告知されたのは昨年5月。球速が上がらずMRI検査を受けたところ、肩や肘には異常がなく、初期のがんを患っていることが発覚した。

 その後、デービッド・プライスを含めた13選手が動く三角トレードでタイガースへ移籍。驚くべきは、その時点でタ軍はがんのことを承知した上でノリスを獲得したことだ。

 米国がん学会のサイトによると、最近5年間で初期の甲状腺がんは98~100%の確率で完治するという。ノリスも万全ではないものの、手術はシーズン終了後でも間に合うとの診断を受け、移籍後もがんを患ったまま試合で投げ続けていた。

 このあたりは「数字」というものの米国社会の捉え方なのだな、と考えさせられる。このオフは日本選手が厳密なメディカル・チェックで契約が左右され、あらためてメジャーの厳しい目が浮き彫りになったが、その一方で完治が確実なら獲得するし、試合にも起用するわけだ。

 ノリスは1月にはブルペン投球も始め、手術の影響は全く感じていないという。「術後、3週間運動を禁止されただけで、そこからは以前の暮らしに戻ったよ」と笑う。ニカラグアへ波乗りに出掛け、プロの写真家と撮影ツアーと称してバンで全米を回るなどオフも満喫した。

 故郷のテネシー州ジョンソンシティでのクリスマスパレードには、英雄として迎えられた。地元のヤコブズ自然公園のシンキング川復興活動にチャリティーで参加。同公園はO157大腸菌感染で04年に6歳で亡くなった地元のヤコブ・フランシスコ君の名前が付けられ、そこを流れる川の除染や橋の工事などが主な目的。「自分も手術前に多くの人から勇気をもらった。不幸な病で人が傷つくのを見ることはつらい」とヤコブ少年の両親からの依頼に2つ返事で協力を約束した。

 「もう気持ちは100%野球に集中できている。自分の頭の中では、世界で一番の投手になることを期待しているし、そのためにやっているんだ」

 自然を愛し、死地を乗り越えた、心優しき左腕。「肩のひっかかりのような感じだった」という悪性腫瘍が取り除かれ、万全な状態で迎える今春。どんな投球を演じてくれるのか、今から楽しみだ。(大リーグ担当・後藤 茂樹)

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2016年2月7日のニュース