野球賭博“勧誘”教材は実例 鈴木啓示氏の体験談紹介

[ 2016年1月13日 05:30 ]

暴力団対策の実態と手口について講義するプロ野球暴力団等排除対策協議会顧問弁護士の深澤直之氏

 草魂を見習い、ノーモア賭博!日本野球機構(NPB)の新人選手研修会が12日、東京都内のホテルで行われ、楽天のドラフト1位・オコエ瑠偉外野手(18=関東第一)ら116選手が参加。昨年の巨人選手による野球賭博問題を受け、1969年の「黒い霧事件」の説明とともに、通算317勝左腕・鈴木啓示氏(68=スポニチ本紙評論家)が八百長の誘いを断った際の生々しいやりとりも紹介された。日本球界を背負っていくルーキーたちに賭博に関与しない強い心を求めた。

 野球協約の条項説明にはじまり、「黒い霧事件」の経緯をプロジェクターを使いながら説明した後だ。NPBの伊藤修久法規室長は切り出した。

 「近鉄のある主力投手の例をご紹介したいと思います」

 毅然(きぜん)と八百長と立ち向かった選手がいた。約5分間。生々しいやりとりを、伊藤室長が関西弁で臨場感たっぷりに紹介した後、ルーキーたちに「この選手をご存じですか?通算317勝を挙げている投手、近鉄の大エース、鈴木啓示さんです」と明かした。

 近鉄の先輩でスナックを経営していた先輩がいた。鈴木氏もお世話になっていたが、その店で先輩から紹介されたのが暴力団関係者。「今後投げる試合で手心を加えてくれへんか?」と言われたことが始まりだった。

 鈴木氏 そんなことはできません。

 半年後。先輩から「あの方(暴力団関係者)と付き合ってくれ」と再度言われた。

 鈴木氏 いっぺん、あんなこと言われた人と僕は付き合えません。先輩に長い間お世話になりましたけど、先輩との付き合いもやめさせてください。電話もせんといてください。

 先輩 付き合った方がおまえのためになると思って言っている。野球できへん体にしてやるぞ。

 鈴木氏 野球できへん体にされたら、実家の酒屋の商売でも手伝いますわ。その方が八百長やっているよりも、よっぽどマシです!

 鈴木氏は当時22歳、24勝を挙げ、最多勝を獲得した69年の出来事だ。同年は八百長が明るみに出た「黒い霧事件」が発覚。65年新人王の池永正明氏、65年東映のドラフト1位で11勝を挙げた森安敏明氏ら、同世代の選手が永久追放処分を受けた。「草魂」を座右の銘とした鈴木氏の男気エピソード。近鉄球団を通じてコミッショナーへの告発も正確に行っていたからこそ、記録が残っていた。伊藤室長は「鈴木さんの勇気ある行動とともに覚えていただけたら」と強く訴えた。

 賭博問題で揺れた巨人のドラフト1位・桜井(立命大)は「自己管理が大事。先輩であるとか関係なく、断るべきことは断る大切さを学んだ」と実感を込めて話した。初めて新人研修に組み込まれた「有害行為」と題された30分にわたる講義。鈴木氏の毅然とした態度は、新人選手の心にしっかりと刻まれたはずだ。(倉橋 憲史)

 【ドラ1新人の反応は…】

 ▼楽天・オコエ プロとして責任ある行動をとりたい。自分自身が強い意志を持っていれば道を外れない。

 ▼西武・多和田 注意して自覚を持ってやらないといけない。

 ▼中日・小笠原 国民の模範になるような、尊敬される選手になりたい。

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2016年1月13日のニュース