資料はB5かA4か…まるで企業のプレゼン ハム異色の口説き術

[ 2015年11月29日 09:25 ]

2012年11月、ドラフト1位指名した大谷との入団交渉を終え、感触を語る日本ハムの山田正雄GM(現スカウト顧問、左)と大渕隆スカウトディレクター。手には資料が…

 秋から冬にかけて、野球界では口説き文句があふれ返る。「君が欲しい」「お前が必要だ」「僕の胸に飛び込んできて」――。交渉の「切り札」としての役目も担っていた巨人の長嶋茂雄終身名誉監督や、楽天の星野仙一副会長は監督時代、こんな言葉でFA選手のハートをわしづかみにしてきた。

 スター監督の出馬。これはFA交渉における人気球団の「常道」だが、アマチュア選手を口説く場合はその限りではない。日米10球団が争奪戦を演じた01年の日南学園・寺原を巡っては、ダイエー・王監督、巨人・原監督、ドジャース・ラソーダ副社長らそうそうたるメンバーがドラフト前に宮崎まで駆けつけた。だが、これはあくまでも例外。最近のアマチュア選手との面談は編成部門のトップやスカウトらが、育成方針や球団施設を説明するのが通例となっている。

 となると誰が口説くか、ではなく、どのように口説くかが鍵となる。メジャー挑戦の意志があることを表明した09年の花巻東・菊池の時は、日米20球団が面談を行った。1球団の持ち時間は30分。名刺交換をして天気の話などをしていたら、あっという間に終わってしまい相手の印象には残らない。

 面談の数日前。日本ハム・大渕隆スカウトディレクターから質問されたのを覚えている。「面談する部屋の広さはどれぐらいか分かりますか?」。すぐにその意図を理解することができなかった。「机を挟んで相手と距離がどれぐらい離れているかによって、資料をB5にするか、A4にするか決めようと思って」。ビックリした。こんな企業のプレゼンのようなことを考えるスカウトは、12球団を探してもおそらくいない。早大を卒業後、IBM、高校教師と異色の経歴を持つ大渕スカウトならではの発想だろう。

 結果的に菊池は日本を選択。ドラフトでは6球団の1位指名が重複した末、西武が交渉権を獲得した。だが、この用意周到な姿勢は、3年後に生きる。メジャー挑戦を表明していた大谷を敢然と1位指名。入団交渉の席にA4版25ページに及ぶ資料を持参するなどして指名から1カ月後に翻意させることに成功した。

 来年ドラフトの目玉は創価大の最速156キロ右腕、田中正義。メジャーも虎視眈々と獲得を狙っており、また日米による大争奪戦となることが予想される。各球団が日本のプロ野球の魅力をどう伝え、どのように口説くのか楽しみだ。 (白鳥 健太郎)

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2015年11月29日のニュース