ヤク山田 昨季15盗塁から一気に倍の進化 コーチの言葉で「意欲」

[ 2015年9月7日 06:02 ]

<ヤ・広>6回2死一塁、打者・畠山の時に二盗成功。今季30盗塁となった山田

セ・リーグ ヤクルト6-0広島

(9月6日 神宮)
 ヤクルトの山田哲人内野手(23)が6日、広島戦の6回に今季30盗塁目を決め、同一シーズンで打率3割、30本塁打、30盗塁をマークする「トリプルスリー」の条件を現時点で満たした。8月22日の中日戦(神宮)で自身初の30本塁打に到達。打率はシーズンの規定打席を既に超えて・333だ。02年の西武・松井稼(現楽天)を最後に、過去8人しか達成者がいない大記録。昨季、193安打の日本人右打者最多安打を記録して大ブレークした男が、今年も球史に名を刻もうとしている。

 神宮球場にこだまする「走れ、走れ、山田!!」コール。6回2死。降りしきる雨の中、中前打で出た山田がスタートを切る。快足を飛ばして滑り込んだ二塁に、ベースカバーの野手はついて来られなかった。送球が中前に抜けるのを見て三塁へ。直後に降雨中断となり、戻ったベンチで同僚から30盗塁達成を祝うグータッチ攻めにあった。

 「シーズン前から個人的な目標として30盗塁したいと思っていた。達成できてよかったです」

 昨季は打率・324、29本塁打。トリプルスリーへは盗塁増が難関だった。50メートル5秒67と抜群の足を持ちながら、昨季は15個。アウトになるのを恐れ、なかなかスタートが切れなかった。意識を変えたのは、昨秋や今春のキャンプで三木、福地両走塁コーチにかけ続けられた言葉だった。「走塁は試合の流れを変える力を持っている」――。

 三木コーチが、言葉の中に込めた意図を説明した。「相手が嫌がることを考える力、考えようとする力、それに気付こうとする心。走塁を勉強したら守備、打撃にもつながる」。抜群の個人成績でもチームが最下位だった昨季から変わる鍵を、走塁が持つ奥深さに見いだした。圧倒的な能力、センスの上に加わった、最も大事な「意欲」。3月27日の開幕広島戦、初回先頭で安打を放つと、前田健の卓越したクイックモーションをかいくぐって盗塁を決めた。これが始まりだった。

 30盗塁に対して失敗は4。成功率・882は過去3年の盗塁王、14年DeNA・梶谷(・830)、13年広島・丸(・659)、12年中日・大島(・653)と比べても驚異的だ。数字に表れない成長もある。一塁走者としての心構えだ。常に走る構えを見せ、走らなくても相手バッテリーに圧力をかける。優勝争いの中で数字を伸ばし続け、「僕が走ることで相手にプレッシャーをかけられる。それがチームの勝利につながる可能性がある」と胸を張った。

 すでに本塁打は33本。この日3安打で打率は・333に上げ、残り19試合で1割未満でも3割を割らない計算だ。トリプルスリーを確実なものとしたが「まだ分からないので僕は油断していないです。相手もいますし、勝負の世界なので」とニヤリ。首位阪神と0・5ゲーム差に再接近し、何より手にしたい優勝に向け「打って守って走り続けます」と高らかに宣言した。 (町田 利衣)

 ◆山田 哲人(やまだ・てつと)1992年(平4)7月16日、兵庫県生まれの23歳。履正社(大阪)では3年夏の甲子園に出場して3回戦敗退。高校通算31本塁打。10年のドラフトでは斎藤(日本ハム)、塩見(楽天)の「外れ外れ1位」でヤクルトに指名されて入団。2年目の12年4月5日の阪神戦(神宮)でプロ初出場。昨季は193安打で最多安打のタイトルに輝き、ベストナインも受賞した。1メートル80、76キロ。右投げ右打ち。

 ≪複数部門で1位なら初めて≫山田(ヤ)が今季30盗塁。現在打率・333、本塁打33本を記録しており、02年松井稼(西)以来13年ぶり史上9人目、チーム初のトリプルスリーがほぼ確実となった。ヤクルトは残り19試合。仮に1試合4打数と計算し、山田が今後76打数7安打、打率・092と下げても最終・300で3割をクリアできる。また、過去のトリプルスリー達成者で当該部門のリーグ1位は50年別当(毎日)、53年中西(西鉄)の本塁打王があるだけ。山田は現在本塁打、盗塁の2部門でトップに立っており、複数部門で1位なら初めて。なお、パでは柳田(ソ)が打率・360、29本塁打、28盗塁とトリプルスリーが濃厚。同一シーズンで2人が達成すれば、50年別当、岩本(松竹)以来65年ぶり2度目になる。

 ≪過去のトリプル3≫

 ☆別当 薫(毎日、50年)43本塁打、105打点はリーグトップ。パ・リーグ初代MVPにも輝いた。

 ☆岩本 義行(松竹、50年)歴代最高齢となる38歳シーズンに達成。3月11日の中日との開幕第2戦(下関)でセ・リーグ第1号の満塁本塁打。

 ☆中西 太(西鉄、53年)当時は入団2年目の弱冠20歳。達成者の中では現在でも最年少記録。

 ☆簑田 浩二(阪急、83年)シーズン114試合目、9月23日南海戦(西宮)で2盗塁して31盗塁。翌24日の同戦の8回に30号2ランを放った。 

 ☆秋山 幸二(西武、89年)シーズン124試合目、10月6日の日本ハム戦(西武)で2打数1安打。打率を3割に乗せる。以後はキープして、入団9年目にして初のシーズン3割をマーク。

 ☆野村 謙二郎(広島、95年)10月6日ヤクルト戦(神宮)の3回に30個目の盗塁を記録。チーム128試合目、3試合を残しての達成だった。

 ☆金本 知憲(広島、00年)10月11日ヤクルト戦(神宮)の4回に右翼へ記録達成の30号弾。136試合目、シーズン最終戦は20世紀のセ・リーグ最後の試合だった。

 ☆松井 稼頭央(西武、02年)9月15日近鉄戦(大阪ドーム)で5回に30号。スイッチヒッターで史上初の快挙となった。1番打者として36本塁打はプロ野球記録。

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