単なる精神論ではない「一球入魂」 メンタルコーチが教える心の鍛え方

[ 2015年8月30日 09:00 ]

甲子園決勝の東海大相模戦で6回2死満塁、仙台育英・佐藤将は適時三塁打を放ちガッツポーズ

 野球は精神論で語られることが多い。「一球入魂」や「気持ちで負けない」という言葉がよく使われる。今夏の甲子園もそうだった。歴史に残る好ゲームとなった東海大相模と仙台育英の決勝。3点を追う6回2死満塁で、仙台育英・佐藤将が走者一掃の中越え同点三塁打を放った。東海大相模の152キロ左腕・小笠原から打った完璧な一打を「気持ちでは負けられない。気持ちでまさって打球が伸びてくれた」と振り返った。

 この非科学的とも思える談話について、専門家に聞いてみた。大相撲の栃煌山の「メンタルコーチ」を務める杉尾富美子さん(34)は「練習を積んできた選手なら、“絶対打てる”と思うだけでもパフォーマンスは全然違う。精神論は魔法じゃない。心がいい状態なら体が味方する」と言う。

 「自己効力感」という用語がある。意味は「自分はできると思うこと」。この「自己効力感」をアップさせれば本番で力を発揮できる。ある高校の投手が「130キロの直球でも気持ちが入っていれば打たれない」と言っていたのを思い出す。まさに「一球入魂」だ。杉尾さんは「ボールが手から離れるまでの間に最高のパフォーマンスをしようと集中することができる。その状態を“一球入魂”という言葉で表している」と説明する。「心技体」の「心」が、「技」「体」の向上につながるということだ。

 では、その「心」はどのように鍛えればいいのか。「練習から本番と本番までの流れを思い浮かべる“メンタルリハーサル”をする。会場の盛り上がりとか、考え得ることをイメージして“想定外”を減らし、飲まれないようにすることが大事」と話す。雰囲気に飲まれないという点では「注目されてナンボ」と言い切り、満員の甲子園でも緊張しない早実の1年生・清宮は凄いと言う。

 栃煌山は7月の名古屋場所で白鵬、鶴竜の両横綱を破り、10勝5敗の好成績を残した。甲子園で東海大相模という「横綱」に立ち向かった仙台育英は6―10で敗れたが、東北勢初優勝の期待を抱かせた。単なる精神論ではないメンタルのトレーニングに注目したい。(渡辺 剛太)

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