偉大なるプロ野球記録保持者、コメントに表れる一流の美学

[ 2015年8月11日 09:00 ]

1979年7月、33試合連続安打の日本新記録を達成した広島・高橋慶彦

 野村克也氏は、さすがだった。中日・谷繁兼任監督に3017試合のプロ野球最多出場記録に並ばれた際に発した、コメントの面白さ。「休みすぎ。俺はずっと出ていた。プレーイングマネジャーと言うからには試合に出続けないと」と、監督時代さながらの「ぼやき」をエールに交えた。

 不滅と言われた記録だった。並ばれ、抜き去られることに寂しさ…もっと言えば、悔しさがあるはずだ。それでもコメントは通り一遍にはしなかった。野村氏にしかできない返しで唸らせた。

 大記録の際は、前達成者にコメントを求める。7月は、西武・秋山の連続試合安打記録があった。9回最終打席の本塁打で28試合とし、30、31試合目は3安打を連ねた。「33試合」。その時に向けて、取材は急務だった。プロ野球記録保持者は元広島、高橋慶彦氏だ。

 窓口は所属マネジメント会社。問い合わせると、丁重に回答をいただいた。「高橋は現在、野球へのコメントは控えさせていただいております」。困った。つてを頼る。広島で経営する洋食店「ダイニング慶彦」。広報部長の肩書きを持つ福島の住宅販売・施工会社「ウェルズホーム」。多彩な活動は分かったが、本人がつかまらない。さすがは赤ヘルの韋駄天…。

 秋山の記録は31で止まり、結局、高橋氏のコメントを紙面掲載する必要はなくなった。足跡を追う中、関係者が教えてくれたことがある。「それとなく聞いたことがあります。連続安打の記録が抜かれたら、どう思いますかって。“素直には祝福できない”。そう言っていたと思います」。

 大記録当時、1979年の新聞記事を読んだ。33試合目は7月31日の巨人戦(広島)。その昼、母校・城西が自身が出場して以来5年ぶりの甲子園切符を手にした。「僕の快挙なんかよりよっぽどうれしい」と話して臨んだ試合。初回先頭で左前打し、金字塔を打ち立てた。「(一塁の)王さんから“おめでとう”と記念のボールを渡された時が一番うれしかった」と感慨を口にしている。

 駆け出し時代の練習量は語りぐさ。その原動力を、片岡篤史氏(スポニチ評論家)との共著「プロ野球 成功する人の条件」(KADOKAWA)に記している。「明日ヒットを打てるかな?と思ったときに、なんとかなると思うか、打てないかもしれないから練習しようとなるか。臆病さが逆に強さになってきた。俺は“弱いやつは強い”と思うんだ」。高橋氏が自分に並んだ男の出現を悔しがりながら出すメッセージは、きっと味わい深いはず。「33」への次なる挑戦者を待ちたい。(和田 裕司)

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