天国の友に贈る完全燃焼 白樺学園、サヨナラ負けも執念見せた

[ 2015年8月9日 05:30 ]

<下関商・白樺学園>延長の末、初戦敗退を喫して肩を落とす白樺学園ナイン

第97回全国高校野球選手権第3日・1回戦 白樺学園3―4下関商

(8月8日 甲子園)
 亡き球友へ贈る熱闘だった。第97回全国高校野球選手権大会第3日は8日、甲子園球場で4試合を行い、第4試合で北北海道代表・白樺学園が下関商(山口)と対戦。2点を追う8回に4番・加藤隆舗(3年)の左越え2ランで追いつき、2番手の背番号10・中野祐一郎(3年)も好救援を見せた。延長11回の末にサヨナラ負けしたが、昨年11月に不慮の事故で亡くなった渡部洸稀さん(当時2年)へ、ナインは甲子園から全力で戦い抜く姿を天国まで届けた。

 カクテル光線に照らされたグラウンド上に、歓声と悲鳴が交錯する。延長11回2死二塁。下関商の8番・森元の投手返しの打球が中前に抜けていった瞬間、白樺学園の短い夏が終わった。

 「悪いボールじゃなかったけど、もうちょっといいボールが行ったのでは…」。女房役の川波俊也(3年)の要求通りの直球だった。でも、もっといいコースに投げられたかもしれない。中野は悔しがった。6回から救援し、144キロ直球と鋭い変化球で10回まで3安打無失点。まだ抑え続けるつもりだった。

 突然の雨、そして雷鳴が響いた。猛暑の空がにわかに荒れだした初回に先制を許し、4回裏には甲子園周辺の雷鳴のため午後5時13分から56分間の中断。照明が点灯し、試合再開は午後6時9分だった。「気温が下がったので試合がやりやすかった」と中野。道産子ナインは悪天候も味方に付け、2点を追う8回には、4番・加藤が左翼ポール際に同点弾を放った。打った瞬間、右手を突き上げて「今までで一番の感触だった」。そして「力を出し切ったので悔いはない」と言い切った。天国から見守ってくれた球友へ、全力プレーを届けられたから、勝敗は二の次だった。

 昨年11月にアルバイト先の農作業中に亡くなった渡部洸稀さんと一緒に戦った。甲子園出発前日の7月30日には、戸出直樹監督(39)と亀田直紀部長(28)、渡部さんと小学校からチームメートの中野が北北海道大会の優勝カップと盾を手に自宅を訪ね、仏前に手を合わせた。「頑張ってきます」。戸出監督から渡された北北海道大会の優勝メダルは今、位牌にかけられている。この日は渡部さんの家族もスタンドで観戦。北北海道大会までベンチに飾られていた渡部さんのユニホームは規定でベンチに持ち込めないため、アルプス席に掲げられた。渡部さんと同じクラスだった加藤は「激動の3年間。一番つらかったのは洸稀がいなくなったこと。あいつのために頑張ってきた。負けたけど、喜んでくれると思う」。控え部員でスタンドで応援した渡部さんの弟・悠平(2年)は「見てくれていたと思う。来年は自分が出る」と空を見上げた。

 雨がやみ、雷鳴がおさまった甲子園には優しい風が吹いた。中断を含め2時間51分の激闘。白樺学園ナインの精いっぱいのプレーは、甲子園から天国へ届いたはずだ。
 (竹内 敦子)

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