カブス・和田 メジャー挑戦目前“極秘渡米”の真相

[ 2015年7月14日 08:30 ]

カブス・和田(AP)

 カブス・和田のメジャーでの登板を見るにつけ思い出すのが4年前のことだ。当時ソフトバンク担当で、このオフの懸案のひとつが和田の大リーグ挑戦だった。

 11年12月11日、ソフトバンクが8年ぶりに日本一に輝いた祝賀パレードが福岡で行われた。16勝を挙げて優勝に貢献した和田も、もちろん参加した。球団の公式行事を済ませた翌12日は渡米する可能性があり、第1便から逃さないように福岡空港へ向かった。早朝でほとんど人気のない空港に他紙の記者はいない。捕まえれば単独取材のチャンス。しかし、待ち人はなかなか姿を現さなかった。

 「福岡発とは別のルートで米国入りしているのでは」と思い、携帯電話を鳴らしてみた。飛行機に乗っていればつながらないはずで、既に渡米していたら国内通話とは違う発信音がするから分かるはず…。鳴らしてみるといつも通りの発信音だった。まだ国内にいるのかと思ったが、和田はついに空港に姿を現さなかった。そして数日後、オリオールズ入りを地元メディアが報じた。

 その年末、和田を囲んだ食事会。もつ鍋をつつき、焼酎でホロ酔いの和田に渡米はいつだったのかと聞いた。「実は…」と申し訳なさそうに明かしてくれた真相はこうだった。

 優勝パレードがあった11日には夜に球団が一年の働きをねぎらう納会があり、和田は家族とともにリラックスした様子だった。離日したのは、その直後だった。大急ぎで福岡空港へと向かい、最終便で米国へ渡ったという。携帯電話の着信音がいつもと変わらなかったのは、渡米を察知されないように自宅に電源をつけたまま置いていったから。まだ経験したことがないメジャー球団とのナーバスな契約。代理人からは口止めされていただろう。電話に出て、しゃべってしまうのが怖かったとも話していた。憧れ続けたメジャー挑戦を目前にし、考え抜いた末に編み出した極秘渡米のシナリオにまんまとやられた。

 その和田が今季苦しんでいる。左太腿の張りで出遅れ、6月17日(米国時間18日)のインディアンス戦で今季初勝利を挙げたが、左肩三頭筋の炎症のために再びDL入りした。今季7試合の登板で気になったのは、マウンドで見せる首をひねるシーンだ。打者と勝負する前に、自分と闘っている印象を受ける。厳しい戦いを強いられていることは分かっているつもりだ。それでも、あの日のようなしたたかさで屈強な打者たちを牛耳る左腕が見たい。 (森 寛一)

続きを表示

2015年7月14日のニュース