オリ大型補強なぜ空回り(1)V候補は対話不足で「一丸」ほど遠く

[ 2015年6月16日 09:30 ]

新加入も故障がちなブランコ(左)とバリントン

 オフに大型補強に成功し、開幕前には優勝候補にも挙げられたオリックスが沈んでいる。66試合を終えて、25勝40敗1分け、勝率・385でまさかの最下位。今月2日には森脇浩司監督(54)の休養が早々と発表された。舞台裏では何が起きていたのか。低迷の真相と逆襲のカギを探った。

 開幕前、森脇監督がふと、つぶやいた。

 「このチームは今、敏感な時期にいる。どちらに転ぶか分からない」

 わずか勝率2厘差で敗れた昨年から中島、ブランコ、小谷野、バリントンらが加入。西名弘明球団社長も「満点補強」と言った巨大戦力を抱えながら、何に「危機感」を感じていたのだろうか。不安を拭い切れぬまま、3月27日の開幕戦が迫ってきていた。

 指揮官の不安を物語る出来事は、宮崎キャンプ中に現れた。初日から始まったシートノックで、選手は連日ポジションを動かされた。新戦力組では中島が遊撃、小谷野が三塁に入ったが、2日目はそれぞれ三塁と一塁へ。3日目は一塁と二塁へ…。ほとんどの選手が、球場に着くとまずポジションを確認するのが日課だった。

 あまりある戦力から無限の可能性を導き出そうとしたのが、この「複数ポジション制」だ。だが、ほどなく選手から「このチームは一体、どうやって勝つんでしょうか」という声が出てきた。何が基本型なのか。競争方針が打ち出されたにも関わらず、『どこで、誰と競争しているのか』分からなかった。新戦力が増えれば、各選手の役割も変化する。ミーティングで指揮官の意図が伝わりきらなかったのが原因だった。

 「迷走」と呼べる事件も起こった。2月のある練習試合で「代走山崎」と指示を出した。誰もが捕手の山崎勝己に視線を向けたが、指揮官は「福也だ」とドラフト1位左腕の山崎福也を指さしていた。ベンチでは誰もが事態を飲み込めず、山崎福もキョトンとするばかり。登板予定がなく、勉強の意味も込めてベンチ入りしていただけで、当然スパイクは履いていなかった。結局、他の選手が代走で出た。

 冗談なのか。それとも、プロはどんなときも準備を怠るなというメッセージなのか。真意が語られない一方で、顔をしかめる者もいた。競争と言いつつ、代走で開幕1軍を目指す選手のアピール場を削るのか。波紋は広がっていった。

 森脇浩司という人間は戦略家として有名だ。「野球をよく知っている」と誰もが認めている。「代走・山崎福也」には誰も気づかない「意味」があったのかもしれない。だが、伝わらなければ意味がない。開幕直後のミーティングでも、「お前らが打てないから勝てないんだ」と、名指しで数人の選手が叱責されたことがあった。開幕ダッシュの失敗が数選手の打撃不振にあったとは思えない。発奮させるのが狙いなら分かるが、指摘しやすい選手を叱責しているだけではないのか。見ていた選手達は、そんな印象を受けてしまった。

 2勝12敗1分けで借金10となった4月13日、再建策として瀬戸山球団本部長が「4番と守護神候補をリストアップしている」とさらなる補強案が示された。だが、中にはしらける反応もあった。実は昨年オフ、球団は現場からのトレーナー増員要求を一度却下している。金子、平野佳のFA残留資金も含めると50億円超といわれた補強費に比べ、500分の1以下の人件費が渋られた。補強組も含め、主力が高齢化しつつある現状で、トレーナーの増員は「あるべき補強」だったはず。しらけるのは当然だった。

 森脇監督は「うちは去年、勝ったから一丸になったのではない。一丸になったから、勝つ確率が高まった」と言った。その通りの快進撃だった。ならば、今季の低迷に、一丸になれないチーム事情は切っても切り離せない。コミュニケーション不足は至る所で顕著だった。巨大戦艦が傾きかけたころ、チームを揺るがす事件が起こった。

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