日本ハムの若き正捕手・近藤 恩師が語る魅力と課題

[ 2015年5月31日 18:44 ]

<日・中>お立ち台でポーズをとる近藤(左)と有原(右)

 下馬評を覆し、パ・リーグの首位を走る日本ハム。好調な投手陣をリードするのは、若き正捕手・近藤健介(21)だ。打撃も好調で、31日の中日戦は2安打3打点と活躍し、お立ち台にも上がった。横浜高時代から近藤をマークする野球ライターの菊地選手が、「横浜高校の頭脳」と呼ばれた恩師・小倉清一郎さんに「捕手・近藤」の魅力と課題を聞いた。

 日本ハムという球団の「新陳代謝」のよさには、いつも驚かされる。「去る者」は追わず、「来る者」は拒まないどころか、我慢して使い続ける。毎年のように「育成」と「勝利」の二律相反をやってのけて優勝争いに加わってしまう。応援しているファンにとっては、毎年新しいスターが現れるのだから、見ていて楽しくてしょうがないのではないか。

 今季は大引啓次がヤクルト、小谷野栄一はオリックスへ。脂の乗った主力内野手が相次いで抜けたが、それどころではない危機が「扇の要」にあった。昨季105試合に出場した正捕手の大野奨太が右肘痛、同71試合出場の二番手捕手・市川友也は椎間板ヘルニア手術の影響で、それぞれ出遅れている。守備面の心臓部を欠く、本来ならば絶望的な状況。それでも21歳の近藤と19歳の石川亮が大野の出遅れをカバーし、首位を走っている。

 特に近藤の活躍ぶりは目覚ましい。大谷翔平投手が挙げた7勝のうち5勝をリードし、バットでも打率・327と結果を残している。捕手登録ではあるものの、昨年まで多くの野球ファンの認識は「内野手兼捕手」という感じだったはずだ。昨季は89試合に出場しているが、マスクをかぶったのは16試合しかない。

 「リードもバッティングもたいしたもの。よくやってますよ」そう語るのは、横浜高時代の恩師・小倉清一郎さんだ。近藤を「打者」として評価する向きがある中、小倉さんは「近藤は捕手でこそ生きる」と見ている。「リードの面白さを知っている。捕手をやりたくてしょうがないという選手ですよ。サイズ(身長173センチ)の心配もありません。大野が本調子に戻ったらまたサードに回されるのかもしれないけど、キャッチャーでやってほしいですね」小倉さんの求める水準は極めて高い。

 たとえば、横浜高ではピッチャーの「一塁ベースカバーの入り方」だけで何パターンも練習させられる。一塁ベースに一直線で向かうか、ふくらみながら向かうか、状況に応じて使い分けさせるのだ。横浜高の卒業生がプロで初めて練習に参加した際に「正直、高校時代のほうが細かった」と漏らすのはよくあること。多くの横浜高OBがプロで成功している理由もそこにある。そんな小倉さんが近藤を捕手として認めているのだ。ただ、小倉さんは口を尖らせて「ちょっと不満があるんだ」と続けた。

 「ピッチャーにピッと返球しないでしょ?本気で投げろという意味じゃなくて、5~6割の力でいいんだよ。でも、近藤は3割くらい。私は高校生のキャッチャーを教える時は、『ピッチャーへの返球で肩を作っておけ』と言うんです。急にランナーに走られても対応できるようにね。でも、今はそれができないんだから、…ちょっとイップスなんだろうな」長い距離は普通に投げられるのに、なんでもない短い距離でコントロールが定まらない。通称「イップス」の気配があると小倉さんは指摘する。一流の技術を持った人間が集まるプロの世界でも決して珍しいことではないが、このつらさは経験した者でないとわからないだろう。

 近藤がこれから捕手として大成するのか、それとも敵に弱点を突かれてしまうのか、チーム内の競争に敗れるのか…。プロの1年は長い。しかし、もし最後まで「大谷の女房」としてシーズンを過ごせたとしたら、秋には「ピッ」と返球している近藤のマスク姿を見てみたいものだ。

 ◆菊地選手(きくちせんしゅ)1982年生まれ、東京都出身。野球専門誌『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。プレーヤー視点からの取材をモットーとする。著書に『野球部あるある』シリーズがある。

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