脅迫めいた抗議も…秋山監督 涙の劇的V「重いプレッシャーだった」

[ 2014年10月3日 05:30 ]

<ソ・オ>優勝を決め胴上げされる秋山監督

パ・リーグ ソフトバンク2-1オリックス

(10月2日 ヤフオクD)
 球史に残る劇的Vだ。ソフトバンクは2日、レギュラーシーズン最終戦で勝率で1厘差に迫ってきていた2位オリックスと対戦。1―1で迎えた延長10回1死満塁から松田宣浩内野手(31)が左越えにサヨナラ安打を放ち、4時間23分の激闘に終止符を打った。開幕から144試合目で3年ぶり16度目のリーグ制覇。日本シリーズ進出を争うクライマックスシリーズ(CS)には15日に開幕するファイナルステージから出場し、3年ぶり6度目の日本一を目指す。

 劇的すぎる幕切れは、秋山監督の涙腺を壊した。真っ先に駆け寄ってきたサヨナラ打の松田を抱いた。もう涙をこらえられない。胴上げは始まらない。内川をはじめ、選手、コーチ、裏方のスタッフ全員と抱き合い、この苦しみを戦い抜いた労をねぎらった。ようやく、うながされ7度宙を舞った。144試合目でようやく訪れた歓喜と安どの高揚感に包まれた。

 「幸せです。ただそれだけです。これまで選手、監督してますけど、今まで一回も味わったことのない重いプレッシャーだった。半端なかった。それを選手も味わった。10年に1度の試合。本当に優勝できて良かった。めちゃめちゃうれしい」

 マジックが一度も点灯することなく、今季ワーストの5連敗で迎えた雌雄を決する戦い。優勝マジック点灯の可能性があった9月17日以降の10試合で1勝9敗。急失速の陰では球団には脅迫めいた抗議も届いた。憂慮した球団は同23~26日の楽天戦(ヤフオクドーム)で選手にファンとの接触は自粛するよう水面下で通達していた。

 11年の優勝は2位日本ハムに17・5ゲーム差をつけての独走。だが、同年オフに川崎に加え、和田、杉内、ホールトンと計43勝した3人が去った。小久保、松中ら主力の高齢化もあって、2年連続V逸。昨春WBCで侍ジャパンの監督就任要請を固辞してまで臨んだ昨季。初のBクラスに終わり、シーズン途中には監督室のロッカーを殴り、壊したこともあった。

 「寝ていても野球のことを考えている。夢の中にも出てくる。ユニホームを脱ぐまで、監督を続ける限りはそうだと思う。現役時代より監督の方がしんどい。自分の中で消化できない部分があるから。自分でプレーできれば、練習とかをして消化できるけど」。現場の最高責任者としての本音だった。

 柳田、今宮、中村ら若手が育った中でも、今季も新たな戦力の発掘に余念がなかった。「指が太いから使わない」とこれまで親会社の主力商品iPhoneさえ、支給されても、2つ折り携帯、いわゆるガラケーを愛用したアナログ人間だった。だが、今季は自主的にスマホやタブレット端末へと移行。昨年6月に2軍戦のネット中継が開通したことで、自宅とヤフオクドームの15分間のタクシー車内でさえ、「視察」に費やした。

 李大浩(イ・デホ)、中田ら他球団の主力を獲得した「30億円補強」で屋台骨を固めたが、エース摂津が5月に右肩筋疲労で離脱したのをはじめ、内川、寺原、ウルフ、本多…と主力にケガ人が続出。それでも、全選手を把握していたことがリスクマネジメントにもつながり、5月に支配下登録したばかりの飯田を先発へ加えた。また、昨秋キャンプで本格的に三塁の練習をさせた吉村が、7月に右手人さし指を骨折した松田の穴を埋めた。

 キャンプイン前日の今年1月31日。宮崎市内の宿舎で、秋山監督は3年ぶりに全体ミーティングを開いた。選手に配布したのは1枚のA4用紙。インターネットから精査して集めた文章を今宮に音読させた。「どんな環境に置かれたとしても、自ら思い、判断し、その判断に対して独立した個人として責任を持ち、説明ができる」など…。「プロの定義」だった。西武時代の82年から4年間、体験した「広岡野球」が原点。当時、広岡達朗監督から配られた「プロとは何か?」と題された冊子を毎晩、キャンプのミーティングで音読、その上で意見を求められた。体はくたくた。意味も半分も分からない。それでもプロとしての「当たり前の心構え」を反復することで意識は体に染み込んだ。自分で判断し、行動する。それは一流への近道だと、指揮官は身をもって知っていた。

 理想は「(監督が)何もしなくていい野球」と言う。9月24日の楽天戦後、現状打破に選手は自主的にミーティングを開催し、腹を割り、意見をぶつけ合った。就任6年目、手をかける時間は年々、減り、チームの成熟度は上がった。これでホークスを率いた王貞治会長の優勝回数3度に並んだ。ただ、酔いしれてはいられない。「ここからまた一ヤマ、二ヤマあるけど、一歩ずつ少しずつ前進しながら日本一を目指していきたい」。頬に伝った涙はもう完全に乾いていた。

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