昨季は“無駄金”400億円!大リーグがケガ人減らしに乗り出した

[ 2014年8月19日 10:35 ]

ヤンキースの田中

 ヤンキースの田中将大投手(25)に続き、レンジャーズのダルビッシュ有投手(28)も故障者リスト(DL)入りした。日本選手に限らず、大リーグでは今季も肩、肘の故障で離脱する投手が続出。昨季、各球団が選手のDL入り期間に支払った年俸総額は約4億ドル(約408億円)に上ったという。スター選手の故障は球界の将来にも暗い影を落とす。いかにしてケガを減らすか。大リーグ機構(MLB)は新たな命題に取り組んでいる。

 昨オフ、大型補強に成功し、優勝候補と目されたレンジャーズは現在、地区最下位に沈んでいる。低迷の要因は、主力の故障。トレードで獲得した年俸2400万ドル(約24億4800万円)の主砲フィルダーは首の手術を受け、42試合の出場で今季を終えた。先発陣も年俸820万ドル(約8億3600万円)のハリソンは4試合に登板しただけ。540万ドル(約5億5100万円)のホランドは1試合も投げていない。そして1000万ドル(約10億2000万円)のダルビッシュも離脱した。

 選手がDL入りしている期間を年俸の日割りで計算すると、レ軍は今季4500万~5000万ドル(約46億~51億円)の「無駄金」を払うことになるという。年俸2300万ドル(約23億4600万円)のサバシアが8試合に先発しただけで今季絶望となったヤンキースも、損失額は4500万ドル前後。一部は保険で支払われるが、昨季はMLB全体で約400億円が無駄になったという。

 スターのプレーを売り物にする娯楽産業としては、大きな損失。球界として、いかにケガを減らし、無駄な契約を減らすか。その取り組みは既に始まっている。その中心的人物が、ドジャースの医療部門の重役で、投手の肘の権威として知られるスタン・コンテ・トレーナーだ。コンテ氏は「どんな凄い成績を残した選手でもベンチに座っているだけでは何の役にも立たない。今やメディカル情報は、スカウトが選手の能力を見るのと同じくらい重要だ」と話す。

 コンテ氏は10年に、MLBの経済・戦略担当の重役、クリス・マリナック氏とともに「エレクトロニック・メディカルレコード&インジャリー・トラッキングシステム」というデータベースを開発した。簡単に言えば、電子カルテ。選手ごとに過去の故障歴や治療法が詳細に記されている。

 マリナック氏は今年3月の会合でこう説明した。「以前はケガの記録は紙に記し、引き出しに保管しているだけ。その選手がトレードされれば捨ててしまうか、移籍先に郵便で送り、また引き出しの中で保管されるだけ」。選手を獲得する際にメディカルリポートを取り寄せても、球団によってケガの症状に関する見解は異なり、リハビリの記録方法などもバラバラ。有効に活用されていなかったのが実情だ。

 そこで医師や球団トレーナーと話し合い、スタンダードを作ってからデータベースを構築。MLB選手会の協力も取り付け、現在ではマイナーも含めた約7000人分のデータが共通のフォーマットで管理されている。

 コンテ氏は「今はリーグ全体で肘を故障した投手が何人いて、治療に何日かかり、いつ復帰し、再発したのかなど全て分かる。そういうデータがあって、初めていかに故障を防止するかの話し合いができる」と話す。今回、右肘のじん帯を部分断裂した田中についても「2年前ならヤンキースは手術を選んでいたかもしれない」という。

 例えば、じん帯再建手術(トミー・ジョン手術)は90%の確率で成功し、復帰まで1年、球速は上がるというのが定説だった。ところが、MLBの選手だけに限ってデータを集計すると、メジャーに復帰できたのは74%で、復帰には平均16カ月かかり、しかも1年目は球速が遅くなっていた。手術を回避し、リハビリ療法で復帰した選手の詳細なデータもあることで、「じん帯損傷=即手術」という考え方は徐々に変わってきている。

 データベースの成果について、コンテ氏は、「まだこれからだが、少なくともケガの実数は正確につかめるようになった」と話す。現在、新たに取り組んでいるのは、ケガ別に医師やトレーナーを組織化して、より深くリサーチし、球団にフィードバックする。コンテ氏は肘、肩、脳振とうのグループに関わっている。

 毎年12月には各球団のGMや代理人が一堂に会するウインターミーティングが開催されるが、その直前3日間はメディカルスタッフが集結し、新しい治療法や医療情報を交換し合っている。MLBに莫大(ばくだい)な損失をもたらしている選手のケガ。それを減らすことが次の成長戦略へとつながる。

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