元3冠王男泣き 松中755日ぶりお立ち台に「ちょっとヤバイ」

[ 2014年8月11日 05:30 ]

<ソ・日>お立ち台で目頭を熱くする松中

パ・リーグ ソフトバンク6-4日本ハム

(8月10日 ヤフオクD)
 40歳が20歳を打ち、男泣きだ。ソフトバンクの松中信彦内野手(40)が10日、日本ハム戦で5回に代打で出場し、大谷翔平投手(20)から左翼線を破る決勝の二塁打を放った。現役で平成唯一の3冠王は大谷と初対戦。勝負の厳しさを味わわせ、チームを3年ぶりの8連勝に導き、お立ち台では大粒の涙をこぼした。2位・オリックスとは4・5ゲーム差と独走態勢。ベテランの2年ぶりの決勝打で3年ぶりのV奪回へさらに弾みがついた。

 地鳴りのように湧き上がる歓声。喝采を受けた背番号3の涙腺は限界に達した。「久しぶりなので、ちょっとヤバイです。打席に立つ時に本当にたくさんの…」。松中は「ファンの声援が」と続けたかったが、こらえ切れず、声を詰まらせた。決勝弾を放った12年7月16日オリックス戦以来755日ぶりの本拠地でのお立ち台。「感謝の気持ちでいっぱい」。人目をはばからず、号泣した。

 出番は同点の5回2死一、二塁、マウンドには初対戦の大谷。初球スライダー、2球目フォークと変化球が続いた。相手は最速162キロを誇るが、松中は「(代打は)いくら真っすぐを待っても来ない」と想定内だった。1ボール1ストライクからのカーブを捉え、左翼線へ勝ち越し二塁打。1点も与えられない場面で簡単に直球では勝負してこない。プロ18年目の40歳は20歳の配球を読み切った。経験が違った。

 昨季は6月の交流戦優勝セレモニーをボイコットし、以降は2軍暮らしが続いた。今季与えられたのは代打枠で「フェード(の打球)を打つことをやめた」という。フェードの打ち方はバットの始動を遅らせ、内側から出し、やや詰まらせることで右翼へ切れない打球を飛ばす、04年に3冠王に輝いた時の打法だ。だが肉体の衰えを自覚して「簡単にはホームランは打てない。今は走者を還すことだけ」に集中している。前日には9回にボテボテの三ゴロで一塁にヘッドスライディング。かつての栄光は捨てた。

 「代打は本当に難しい。野球人として勉強させてもらっている」。代打の出番が近づくと本を開く。約5分間、目まぐるしく眼球を動かす速読のトレーニングで動体視力を磨く。古傷である右膝の負担を軽減するため、フリー打撃の時にスパイクではなくアップシューズを履く工夫もしている。「(スパイクの)歯があると引っ掛かるし負担になる。カブレラがやってたんだよ」。一昨年までの同僚の調整方法を参考にし、与えられるかどうかも分からない1打席への準備を整えている。

 チームは11年10月の9連勝以来、3年ぶりの8連勝。秋山監督は「一発も魅力だけど、ランナーを還す打撃をしてくれるのはいいね」とベテランの勝負強さに目を細めた。松中は12日の楽天戦で2年ぶりに地元・熊本へ凱旋する。「僕の原点でもあるし、ファンにいい姿を見せたい」。162キロ右腕との再戦も待ち望んだ。「今度は大谷君の直球を打ってみたい」。そこに現役唯一の3冠王のプライドを見た。

 【松中これまでの苦闘】
 ▼手術 09年10月に右膝半月板損傷手術と左肘のクリーニング手術を受ける。全治約3カ月と診断された。

 ▼開幕2軍 10年に開幕メンバーから外れる。オープン戦での打撃不振が原因で、2軍スタートは新人だった97年以来13年ぶりだった。

 ▼大減俸 10年オフの契約更改で4億円から50%ダウンの年俸2億円でサイン。同一球団での2億円減は当時の最大額だった。その後も減俸が続き、今季年俸は3500万円。

 ▼骨折 11年9月14日の西武戦で死球を受け、右膝蓋(しつがい)骨骨折。全治4週間と診断された。

 ▼ボイコット 昨年6月13日に交流戦優勝セレモニーをボイコット。翌14日に登録抹消され、このシーズンの1軍再昇格はなかった。

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2014年8月11日のニュース