高田「考える野球」結実!走って走って初戦突破

[ 2014年5月4日 05:30 ]

<高田・住田>8回1死一、三塁、打者・津田の時、見事な重盗でホームを陥れた三走・村上滉

春季岩手大会沿岸南地区予選1回戦 高田9―4住田

(5月3日 住田)
 進撃の春が来た。春季岩手大会沿岸南地区予選が3日開幕し、高田高校は1回戦で住田と対戦。同点の5回に敵失で勝ち越すと、7回には吉田凜之介(3年)が自身公式戦初本塁打となる2ランを放つなど9―4で勝利を飾った。伊藤貴樹監督(33)が徹底してきた「考える野球」は、積極的な走塁に結実。そうした意識改革を裏打ちしたのは恵まれない練習環境を克服するための効率的な「時短練習」だった。4日には釜石との2回戦が行われ、勝者が県大会に進出する。

 その隙を見逃さなかった。初回無死一塁。吉田の三塁前への犠打でスタートを切った一塁走者の蒲生稜(2年)には見えていた。三塁ベースカバーに入っていない。行け!二塁を駆け抜け、そのまま突き進む。その好走塁が、柏航平(3年)の先制右前打を生んだ。

 「緊張感を楽しむくらいの気持ちがないと。これからどうなるんだろう?って。野球はそれが楽しいんだから」。常日頃、選手にそう言い聞かせてきた伊藤監督は、「良い流れをつくれた。攻撃のリズムがかみ合って、総じて良い試合だった」と初戦勝利を喜んだ。

 厳しい冬を越えた。仮校舎グラウンドは雪で凍り、大船渡市の五葉山からは容赦なく強風が吹き付けた。1988年の甲子園出場を機に建てられた室内練習場は、仮校舎から車で40分の距離。その上、交通手段もいまだ、定時のスクールバスに頼る生活が続く。冬の練習環境は、今年も切実な問題だった。

 限られた時間で効率よく鍛えるために、伊藤監督は趣向を凝らした。たとえば、「ミトコンドリアダッシュ」と呼ばれる、30秒間の全力走。ミトコンドリアとは、酸素を使ってエネルギーを作り出す細胞内の物質で、その量が増えれば持久力が向上。また、他の細胞に比べ筋肉に多く存在し、その中でも瞬発力をつかさどる速筋線維に働きかけることで、より効果的に増加する。

 この全力走を1日に30分間こなした。距離に制限はなく、より重い負荷をかけるために坂道で行うのが必須条件。選手は「魔の練習」と恐れたが、ハーフマラソンに匹敵する運動量が得られた。しかも、所要時間はその4分の1程度で済む。限られた時間でも、十分な体力強化となった。

 そのほかに百人一首で瞬発力と記憶力、集中力を磨き、長縄跳びで動体視力と連係力を養った。一見関係ないことでも、視点を変えれば野球につながる。それが心の革命を下支えした。積極的なプレーをするためには、何をすべきか。それができる運動能力を身に付けることだった。

 そして迎えた春には、「次の塁を狙う練習」を徹底した。昨秋から、1番打者を務める蒲生は、「監督からは“走る意識を変えよう”と言われた」と話す。

 また、2回に中前打を放った早見一摩(3年)は、中堅手のもたつきを見逃さず二塁進塁。「シートノック中は、相手校の外野返球をチェックするようになった。自分は50メートル走は7秒0と遅いけど、隙があらばという気持ちは常にある」。8回1死一、三塁からは村上滉平、菊池翔真(ともに3年)が重盗を敢行。追加点を挙げ、試合を決めた。

 柏は言う。「高田高校に進学したのは、スクールバスがあったから。陸前高田市内からの両親の送迎の負担を考えたら、その方が楽だと思った」。制限や悪条件を嘆くより、今の状況で最善を尽くせばいい。そうやって彼らは、この3年間を生きてきた。焦らず、気負わず、一歩ずつ。夏に向け、機は熟しつつある。

 ▼住田菅野誠喜監督(高田高校野球部OB)昨年は試合にならないレベルのチームだったが、今年は緊張感を持った試合ができた。2年生の多いチーム。随所に収穫はあった。

 ▽ミトコンドリア 生物が生きるためにエネルギーを作る細胞内の小さな器官。食物から摂取した栄養素を酸素によって燃焼し、筋肉を活動させるエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)を産生。その量は必要エネルギー全体の95%に上り、「生命のエネルギー工場」とも呼ばれる。1つの細胞には、50~200のミトコンドリアが存在。基礎代謝を高め、疲労回復や持久力強化に効果を発揮する。

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