導入から3週間…「チャレンジ」がベースボールを変える!?

[ 2014年4月22日 10:53 ]

スタジオでは審判員とビデオの技術者がコンビを組み映像をチェック(C)Jeff Zelevansky/MLB.com

 大リーグ機構(MLB)は今季、ビデオ判定の拡大に伴い「チャレンジ」制度を導入。開幕から3週間が経過し、さまざまな変化が浮き彫りになってきた。同制度の仕組みを紹介する。

 各球団が20試合前後を終え、「チャレンジ」導入によって過去に存在しなかった問題が出てきている。ある意味、当然である。これまで肉眼で見えなかったものが、見えるようになったからだ。

 例えば13日のヤンキース―レッドソックス戦。4回1死一、三塁から、5―4―3の三ゴロ併殺があった。しかし、ジョー・ジラルディ監督が一塁の判定に「チャレンジ」。打者走者セルベリが一塁を踏むのと、一塁手のファーストミットに送球が吸い込まれたのは、ほぼ同時だった。

 だが、スーパースローモーションで見ると、ミット奥の革部分に当たったのはベースが踏まれたよりも遅く、判定がセーフに覆って三走が生還した。レ軍のジョン・ファレル監督は、「ミットに届いていればアウトで、必ずしも奥に届いていなくていいと説明を受けた」と猛抗議して、退場処分を受けた。しかし、この言い分は勘違いだった。

 ビデオ判定のプロジェクト責任者の一人で、カージナルスなどで監督として歴代3位の通算2728勝を挙げたトニー・ラルーサ氏は「キャンプ中の監督ミーティングで、アウトになるのはボールがグラブの奥の革部分に当たった時と説明した。判定が覆ったのは正しかった」と説明。昨年のワールドシリーズを制した指揮官も把握していなかったほど細部まで、ルールの再定義が必要となった現状がある。

 ビデオ分析の現場は、どのようなものか。ニューヨークのスタジオ「リプレー・オペレーション・センター」は9番街の「チェルシー・マーケット」の中にある。クッキーの「オレオ」で有名なナビスコの工場跡地を改装して誕生したレンガ造りのレトロな建物で、1階はこだわりの食料品店が並ぶ。そのビルの一角に最新技術が投入されたスタジオが作られた。

 総工費は30億円以上。ただ広さは900平方フィート(約84平方メートル)で、マンハッタンなら1ベッドルームのアパートより少し広い程度だ。その中に37台の超高性能テレビがあり、30球場とつながっている。

 球場で試合中「チャレンジ」が行使されると、責任審判員がヘッドホンを着けてニューヨークの担当者と連絡を取る。1日8人、分析担当の審判員が勤務に就き、1人で2試合を担当。それぞれに専属のビデオ技術者がおり、7~12個のカメラを駆使してプレーを分析する。スタジオでは「もっと高い位置からのカメラアングルはないか?」「本塁の上ですか」「決定的な証拠がないから、判定はそのままだ」などと言葉が飛び交う。分析の時間は60~90秒と当初の想定通りだ。MLBは「チャレンジ」導入に際し、昨年までの審判員66人に新たに8人を加えた。分析担当者は開幕前に3日間の集中講座を受けシーズンに臨んでいる。

 20日(日本時間21日)現在で、行使された「チャレンジ」は合計131回。判定が覆ったのは、4割強に相当する55回だった。ヤ軍の田中がメジャー初勝利を挙げた4日ブルージェイズ戦など、勝敗を分けた「チャレンジ」も少なくない。より正しい判定を下すという目的は狙い通り進んでいるが、MLBは行使の回数や規則の解釈など、調整は今後も続ける方針。3年間かけてシステムの完成を目指している。

 ラルーサ氏は「代打起用と同じで戦況をにらみながら試合の後半や大事な場面で使うべき」と言う。だが実際には各球団のビデオ担当からゴーサインが出れば初回から使われていることが多く、運営側、球団側ともに試行錯誤が続きそうだ。

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