【野球のツボ】戦力外選手に捧ぐ~人生はまだ終わったわけじゃない

[ 2013年10月8日 16:40 ]

2度の戦力外通告を乗り越え活躍する阪神・加藤

 クライマックス・シリーズも間もなく開幕。日本シリーズに向け、最後の熱い戦いに沸くプロ野球だが、一方でユニホームを脱がなければならない立場に立たされる選手たちがいる。毎年、複雑な思いを感じる季節だ。

 先日も1本の電話を受けた。オリックスから戦力外通告を受けた野中信吾外野手(30)からの連絡だった。

 「球団から通告を受けました。いろいろお世話になりました」。何かと縁のある選手だった。日本ハムのコーチ時代、佐賀・神埼高校で甲子園に出場し、1番ショートでのプレーが印象に残っていた。当時の大島監督に「枠があれば指名を」と進言し、ドラフト5位でプロ入りした選手だった。キャンプで1軍に呼んだところ、ヒットも打つし、盗塁も出来る。守りを鍛えれば、と楽しみにしていたのだが、私はその年で日本ハムを去ることになり、鍛えあげることが出来ずに終わっていた。

 彼は横浜を経て、オリックスに移籍。そこで再び、選手とコーチとして再会した。期待をしたのだが、ついにこの日を迎えることになった。「覚悟はしていました。トライアウトを受けます。それでダメだったら、きっぱりと諦めます」と野中選手は電話で話していた。

 戦力外を通告されても、プロ野球選手として終わったわけではない。今年のシーズンでは2度の戦力外通告を受けた野球人がゲームを何度も盛り上げた。阪神の左腕、加藤康介投手(35)という例もある。

 ロッテでプロ入りし、トレードに出されたオリックスで戦力外通告。トライアウトで横浜と契約したが、そこで2度目の戦力外。左の中継ぎを探していた阪神入りし、13年目の今年はフル回転。4年ぶりの勝利、プロ初セーブを記録する活躍を見せた。加藤投手もロッテのコーチ時代に一緒だっただけに、この活躍は嬉しかった。

 戦力外通告を受けた1人1人に、それぞれのドラマ、人生があるはず。人生は長いし、彼らはまだ若い。新しいことに、まだチャレンジできる。野球を続けるか、第二の人生を歩むのか。決断も無理に急ぐ必要はないと思う。彼らが次のチャンスで飛躍をしてほしいと、心から願っている。(前WBC日本代表コーチ)

 ◆高代 延博(たかしろ・のぶひろ)1954年5月27日生まれ、58歳。奈良県出身。智弁学園-法大-東芝-日本ハム-広島。引退後は広島、日本ハム、ロッテ、中日、韓国ハンファ、オリックスでコーチ。WBCでは09年、13年と2大会連続でコーチを務めた。

続きを表示

2013年10月8日のニュース