山形中央 ガッツポーズはいらない 「絆」見せた1勝

[ 2013年3月28日 06:00 ]

<山形中央・岩国商>応援団にあいさつに向かう山形中央ナイン

第85回センバツ高校野球第6日2回戦 山形中央6-2岩国商

(3月27日 甲子園)
 2回戦3試合が行われ、今大会限定の「東北絆枠」で出場した山形中央が、岩国商(山口)を6―2で下した。1点を追う5回に4連続長短打で3点を奪い逆転。9回には19日の練習試合で負傷、一度は「右眼窩(がんか)骨折」の診断を受けたエースの石川直也投手(2年)が好救援。投打ともにつないでの「絆」の野球で、甲子園初勝利を挙げた。

 ゲームセットの瞬間、山形中央ナインは誰一人としてガッツポーズはしなかった。捕手・羽賀は転がるバットを相手校にそっと手渡した。

 「東北を勇気づけられる勝利だと思う」

 1点を先制された5回2死二塁で好救援し、直後に逆転の三塁打を放った高橋和はそう言った。

 昨年10月7日、東北大会準々決勝で聖光学院(福島)に敗れた。一時は絶望視されたセンバツ出場。それでも、東北絆枠で選出され、ナインは「絆とは?」をテーマにミーティングを重ねた。早朝から学校周辺の民家を訪ね、雪かきをした。きれいな町にしようとゴミを拾った。学校のトイレ掃除は、入念にこなした。「震災で直接被害を受けていない自分たちができることを考えた。精いっぱい戦うことが自分たちの使命」。山形県は東日本大震災による甚大な被害こそなかったものの、震災と福島第1原発事故の避難者を積極的に受け入れ、今もなお約1万人が暮らしている。だからこそ、震災直後のセンバツのスローガン「がんばろう!日本」の精神をナインはしっかり受け継いだ。

 チーム内にも確かな「絆」があった。「石川を投げさせよう」が、合言葉だった。19日の練習試合中に、エースの石川が小飛球を追った際に捕手と交錯。右目の下を負傷、救急車で病院に搬送され2日間の入院。一時は骨折との診断も受けたが、再検査で打撲と判明し、24日に練習を再開したばかりだった。

 背番号8の高橋凌が5回途中1失点で試合をつくり、2番手・高橋和は8回まで踏ん張った。そして、9回。石川がマウンドに上がった。2安打を許しながら無得点に抑えた右腕は「東北の(背番号)1番だと思って投げた。みんなに感謝したい」と振り返った。

 部員たちは震災直後、被災者の避難所となっていた山形市総合スポーツセンターに支援物資を運び、震災後にグラウンドが使えなくなった宮城・石巻工とは、山形に呼んで練習試合を続けている。21世紀枠で初出場した10年春、山形大会を勝ち抜いた同年夏と初戦で大敗。苦杯も震災も経験した庄司秀幸監督は「絆は苦しいことを乗り越えるからつながるもの。それを選手たちに教えてもらった」と、甲子園初勝利をかみしめた。

 ▽東北絆枠 東日本大震災からの復興を進める東北勢を支援する意味合いで、昨年9月のセンバツ運営委員会で設立が決まった第85回記念大会限定の特別枠。今年1月25日に東北地区から一般選考で山形中央が選出された。昨秋の東北大会で8強止まりだった山形中央は戦績に加え、学校周辺の雪かきなど、地域に密着したボランティア活動なども評価された。

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