マー君を発奮させた闘将の言葉「俺なら25勝」「お前は退化しとる」

[ 2012年12月7日 10:26 ]

8月26日、延長10回完封した田中

野球人 楽天・田中将大(下)

 険しい表情をした星野監督が眼前に立っていた。8月22日、Kスタ宮城でブルペン投球を終えた直後だ。「ダルビッシュは日々進化しとる。お前はどうや?退化しとるやろ」。指揮官から浴びせられた厳しい言葉。田中は「おっしゃる通りです」と返すしかなかった。

 東日本大震災の復興支援への思いから3月30日の開幕ロッテ戦(Kスタ宮城)にコンディション不良のまま登板し、4月下旬に腰痛で2軍落ち。5月下旬に1軍復帰後も白星ラッシュとはならなかった。8月に入りボール自体の調子は上向いたが、単調な攻めや失投が目立っていた。星野監督からは「おまえぐらいの球が投げられれば俺なら25勝できる。もっと自信を持て」と気持ちと攻め方の問題点も指摘された。

 田中は2軍でリハビリを行った4月下旬からの1カ月を「チームに貢献できないもどかしさが凄くありました」と振り返る。星野監督からは世界的なアスリートも使用する約400万円の低周波治療器を借り、リハビリに活用した。自身のブログやツイッターにはファンや知人から激励のコメントが寄せられた。特に3月に結婚したまい夫人(旧姓里田)の存在について「去年と今年で大きく違うところは家族がいること。本当にいてくれるだけで違いました」と感謝する。

 サポートしてくれた周囲に対する「恩返し」という強い思いがマウンドでの空回りにつながっていたが、指揮官の「説教」から4日後の8月26日の日本ハム戦(Kスタ宮城)でプロ初となる延長10回、1―0の完封勝利。シーズン開幕のロッテ戦以来5カ月ぶりにスタンド観戦していたまい夫人にも恩返しができた。田中は完封劇を「言葉では説明しづらいけど上半身と下半身のバランスがマッチした感じ。それで結果も出たあの試合は今年一年を振り返っても本当に大きかった」と振り返る。その試合からシーズン終了までの7試合は無傷の4連勝。その期間は登板間のブルペン投球を通常の1回から2回に増やすなどフォームの維持に細心の注意を払い、4年連続5度目の2桁となる10勝にも達した。

 19勝で沢村賞を獲得した昨季とは対照的に、苦難の連続だった一年。それでも「今年は1勝の難しさや喜び、悔しさも含めていろいろなことを経験できた。今後はもちろん、野球を辞めてからも残るものだと思っています」と前を向く。これまでの野球人生と同様、全ての経験を今後の糧とする。それが野球に生きる男の「哲学」だ。

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2012年12月7日のニュース