ジョージア魂賞に田中 完投数リーグトップ!エースができる最高の貢献

[ 2012年10月9日 10:00 ]

ジョージア魂賞を受賞した楽天・田中

 勝利に最も貢献したプレーをした選手を表彰する「ジョージア魂賞」の今シーズン第11回(9月上期)受賞者は楽天の田中に決まった。スポーツライターの二宮清純氏が書く、完投数リーグトップのエースの姿とは。

 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 「まだライバルと意識するレベルじゃない」。パ・リーグのペナントレースを制した北海道日本ハムの若きエース吉川光夫のセリフだ。同期である楽天の田中将大に向けられたものである。

 周知のように今季、吉川は14勝5敗、防御率1.71という好成績でチームの勝ち頭となった。MVPの有力候補でもある。その、今をときめく吉川が先のようなコメントを口にした背景には、田中が6年間にわたって積み重ねてきた実績に対するリスペクトの念があるのだろう。

 ライバルはライバルを知る。豊作と言われるこの世代、やはりトップランナーは田中なのだ。

 8月26日、本拠地での日本ハム戦。田中は中6日でマウンドに立ち、ひとりで延長10回を投げ切った。1対0。112球の無四球完封劇。7月13日以来、44日ぶりの7勝目だった。

 試合後、お立ち台でのセリフがふるっていた。「点数がたくさん入る試合もファンの方々は楽しいと思いますが、こういった緊迫感のある試合も野球です」

 今季は腰痛で戦列を離れた時期もあった。それでも先発投手の安定感を示す指標として用いられるQS(クオリティースタート)率は90.5%と12球団トップ(10月4日現在)。ゲームを支配する能力は抜きんでている。

 完投数が多いのも彼の特長だ。8回という数字も、これまたリーグトップ。そして、これこそがエースができる最大にして最高のチームプレーである。ブルペンの負担を軽くすることで、ベンチにすれば翌日以降のゲームプランが立てやすくなるのだ。辛口で鳴る星野仙一監督も、この日のピッチングには「(沢村勝を獲得した)去年の田中が戻ってきた」と満足気だった。一方、敗れた栗山英樹監督は「パ・リーグのエースは簡単には勝たせてくれない」と言って天を仰いだ。

 組織を家にたとえるなら、エースは文字通りの大黒柱である。背負っているものの重みが違う。だから、彼は自らに言い聞かせるように言うのだ。「一番、大事なのは気持ちです」

 選ばれてあることの恍惚(こうこつ)と不安と二つ我にあり――。フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの言葉だが、23歳は緊迫のマウンドで誰よりも、この思いをかみしめているに違いない。

続きを表示

2012年10月9日のニュース