ジョージア魂賞に坂本 自らの技術向上が最大の貢献に

[ 2012年8月21日 10:00 ]

ジョージア魂賞を受賞した巨人・坂本勇人

 勝利に最も貢献したプレーをした選手を表彰する「ジョージア魂賞」の今シーズン第8回(7月下期)受賞者は巨人の坂本に決まった。スポーツライターの二宮清純氏が書く、七夕の夜にチームを救った23歳の裏側とは。

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 七夕の夜、年に1度見られるかどうかのビッグプレーが飛び出した。

 東京ドームでの巨人―阪神戦。7対5と巨人2点リードの8回表1死満塁の場面で、阪神・和田豊監督は代打の切り札、桧山進次郎を打席に送った。

 マウンド上の西村健太朗にとって桧山は天敵中の天敵である。過去に1度もアウトに仕留めたことがない。5打数5安打、2ホームラン。ヘビににらまれたカエルも同然である。

 カウント2-2からの5球目、快音を発した打球は二遊間を襲った。抜ければ、一気に同点の場面だ。ところが、である。西村が振り向いた先には、なんとショートの坂本勇人がいた。難しいハーフバウンドに飛びついた坂本は、そのまま二塁ベースカバーに入った寺内崇幸にバックハンドトス。芸術的な併殺を完成させ、絶体絶命のピンチをしのいだ。

 偶然のファインプレーではない。坂本はあらかじめ二塁ベース寄りに守備位置を変えていた。打球方向を読んだ上での周到な準備がチームを救ったのである。

 「東京ドームの芝では打球がすぐに死ぬ。“あっ、抜けた!”と思った打球でも意外に追いつけたりするんです。だから常に諦めずに(打球を)追うことを考えています」

 坂本が私にそう語ったのは、プロ2年目のことだ。レギュラーになって間もないのに「しっかりしたことを言う19歳だな」と感心したことを覚えている。

 昨季までショートでは4年連続リーグワーストの失策を記録したこともあって、オフの合同自主トレでは守備の名手・宮本慎也(ヤクルト)に弟子入りした。自分は楽をしていないか、自分に言い訳をしていないか、低いレベルで満足をしていないか…。この先の10年、いや15年を見据えての“武者修行”だった。自らの技術向上がチームへの最大の貢献と坂本は考えたのである。

 チームを窮地から救った23歳は、仲間たちとハイタッチをかわしながらベンチに戻った。言葉はなくても気持ちは通じる。さり気ない振る舞いに、プロの気概がにじんでいた。巨人ファンで知られる作家の山口瞳は「私は野球が好きだ。入場料を支払うプレーを楽しみに球場に行くのである」と語っている。七夕の夜のファインプレーには野球の魅力が凝縮されていた。

続きを表示

2012年8月21日のニュース