【8月14日】1982年(昭57) 2軍落ち、プロ初勝利…阪神 ツーランスクイズの人間模様

[ 2012年8月14日 06:00 ]

 【阪神4―3巨人】セオリーでは考えにくい作戦で、阪神は3本塁打を放った巨人に1点差でなんとか逃げ切り、真夏の後楽園で連勝を飾った。

 
 9回、阪神は2本の中前打と四球で、1死満塁の好機をつかんだ。打席には2番北村照文中堅手。マウンドには巨人の守護神・角盈男投手がいた。阪神としてはじっくり攻められる場面である。四球の後の初球、阪神がどういう攻撃を仕掛けてくるか、スタンドのファンもあれこれ想像しながら初球を待った。

 初球は内角のカーブ。角は決してコントロールのいい投手ではない。北村の体に当たりそうな、厳しいコースに来た。それを北村はバットを縦にして、拝むような格好になってバントを試みた。

 まさに神業の域。バットに当てたボールは三塁側のフェアーゾーンにコロコロ転がった。阪神側が選んだ作戦は、土壇場でイチかバチかのスクイズだった。

 ダッシュして球を処理する、巨人・原辰徳三塁手の横を三塁走者の藤倉一雅内野手が本塁に向かって突進。バックホームできない原は、一つでもアウトを取るべく一塁へ送球した。

 送球し終わって、原は背中に息遣いを気配を感じた。振り向けば、二塁走者の加藤博一外野手が一目散にホームベースめがけて突進していた。

 全くスピードを緩める様子はなし。ボールが返球されようがしまいが、関係なしといった形相で突っ込んできた。原からのボールを受けた中畑清一塁手は、加藤の走塁に圧倒されて一瞬バックホームをためらった。この瞬時のためらいが、加藤の生還を許した。

 お見事ツーランスクイズが成功した。「最初から移行と思っていた」と加藤。その裏、巨人は中畑の本塁打で1点差に迫ったが、阪神が逃げ切り。加藤の好走塁がなければ、という試合結果だった。

 実は加藤、この日の昼に翌15日からのファーム行きを命じられていた。武器である足を見せ、ファーム行き撤回、とはならず予定通り一人帰阪することに。安藤統夫監督は「本当にいい仕事をしてくれた」と労ったが、悔しさいっぱい加藤はあのいつものひょうきんな加藤とは違い、肩を落としながら球場を後にした。

 勝ち越しのツーランスクイズが決まる前の8回裏に2/3回を抑えた、福間納投手にはプロ初勝利が転がり込んできた。ロッテから移籍し、4年目の左腕162試合目の登板で初めて記録された白星だった。

 ツーランスクイズによる1勝の中に、プロ野球選手のさまざまな物語が詰まった伝統の一戦だった。

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2012年8月14日のニュース