ジョージア魂賞に山口 加速するチーム支える育成出身セットアッパー

[ 2012年6月19日 09:30 ]

ジョージア魂賞を受賞した巨人・山口

 勝利に最も貢献したプレーをした選手を表彰する「ジョージア魂賞」の今シーズン第4回(5月下期)受賞者は巨人の山口に決まった。スポーツライターの二宮清純氏が書く、修羅場のマウンドを乗り切るセットアッパーの神髄とは。

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 一時は7もあった借金をあっという間に返済し、現在は貯金10(6月18日現在)。巨人の勢いが止まらない。ターボエンジンでも付いているかのようだ。

 加速するチームを試合の要衝で支えているのがセットアッパーの山口鉄也である。29試合に登板し、0勝0敗2セーブ、16ホールド、防御率0.30。5月23日の埼玉西武戦では、2点リードの9回裏無死一、二塁のピンチでマウンドに上がり、見事な火消しでチームの9連勝に貢献した。その後も快投を続け、6月3日のオリックス戦では開幕からの連続無失点試合を24まで伸ばし、大魔神こと佐々木主浩が保持していたセ・リーグ記録に肩を並べた。

 セットアッパーは骨の折れる仕事である。出番があるかどうかはゲームが始まってみないとわからない。展開を読みながら黙々とブルペンで肩をつくり、名前がコールされる瞬間を待つ。チームへの忠誠心と肉体、精神両面でのタフネスがなければ、この仕事は務まらない。そんな山口に監督の原辰徳は「ブルペンで大きな存在。ほかの投手にいい影響を与えている」と全幅の信頼を寄せる。

 高校卒業後、NPBから声がかからず海を渡った。4年間のマイナー暮らし。帰国後に受けた横浜と東北楽天の入団テストにも失敗した。

 しかし捨てる神あれば、拾う神あり。ダメ元で受けた巨人の入団テスト、独特のチェンジアップがひとりのコーチの目に留まった。「あのボールはおもしろい」。言葉の主は小谷正勝2軍投手コーチ(当時)。「スピードを落とさず、きっちりコースに決める。難しいボールを上手に投げる子だなぁ」

 その年のオフ、育成ドラフトで入団。背番号は102。そこからのサクセスストーリーは“ジャイアンツ・ドリーム”と呼びたくなるほど鮮やかだ。2009年には侍ジャパンの一員としてWBC連覇を果たした。彼は4試合でリリーフし、1点も与えなかった。五輪やWBCで日の丸をつけた育成出身選手は、後にも先にも彼だけだ。

 セットアッパーは、たった1球で悪い流れを断ち切ることもあれば、逆に相手を勢いづかせてしまうこともある。修羅場のマウンドで山口は1球に魂を込める。チームが必要とする限り、いつ、どんな場面でもオレは行くと顔に書いてある。

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2012年6月19日のニュース