開星“やくざ監督”「腹切り発言」から最後の夏まで本音トーク

[ 2012年6月6日 13:18 ]

おなじみの和装でトークライブに登場した元開星監督の野々村直通氏

野々村直通氏「やくざ監督と呼ばれて」トークイベント

 3月いっぱいで定年退職した開星の元監督・野々村直通氏が5日、自叙伝「やくざ監督と呼ばれて」(白夜書房、1260円)の発売を記念して、都内の同社でトークイベントを行った。

 甲子園の抽選会でも必ず着るという和装で登場。「1番高い着物で来たんですよ」と軽いジャブで会場をなごませると、笑いがあるかと思えば、一本筋の通った教育論や野球への愛もあふれた「野々村劇場」が開幕した。

 高校野球ファンなら誰もが知っている有名監督のエピソードやヤンチャな生徒を手なずけるテクニック、時には手も足も出るという教育方法まで面白おかしく語り、どかんどかんと爆笑を呼ぶ話術はさすがの一言。「ちょっとした漫才師より上手いでしょ」と茶目っ気たっぷりの笑顔を見せた。

 その一方で、良くも悪くも野々村氏の名を世に知らしめた「腹切り発言」が飛び出した10年のセンバツ、向陽戦への思いを改めて口にした。「中国大会で広陵と関西を破って、組み合わせ次第では一気にいくんじゃないか」。手応えを持って乗り込んだ甲子園で、対戦相手は21世紀枠。周囲からは絶対勝つと思われていた試合でまさかの敗戦。「ワシは(選手に)何をさせたんやと。負けた瞬間もう1度やらせてくれと思った」。物議をかもした発言は相手への侮辱ではなく、自身への情けなさで思わず口をついて出た言葉だった。

 これが元で1度は監督を辞任。58歳の時だった。教員生活残り2年、このままでは終わらなかった。11年4月に監督に復帰すると、野々村氏にとって最後の夏となる同年に島根県大会で優勝し、再び甲子園へ。「子供たちのおかげで、いい夏で終わらせていただいた。(腹切り発言で)騒いだ人たちにも、(優勝校の)日大三との試合はいい試合だと思ってもらえたんじゃないか。いい花道にしてもらった」。

 結果的に野々村監督にとって最後の公式戦となった選手権2回戦の日大三との試合で、それまでにはなかった感情が沸いてきたという。3回ですでに0-5とされ、エースの白根は降板。「もうダメか」という考えに支配されつつあった5回、白根が2点適時打を放ち、続く森の2ランで一気に4-5の1点差に。「あのとき初めて楽しくなりましたね、野球が。それまで(試合中に)楽しいと思ったことは1度もなかったですよ。勝ったときはうれしいけど、試合が終わるまでは苦しいだけです」。

 続く6回にはさらに2点を加え、一時は6-5と逆転。「そのときは開星のファンになっていた。監督じゃなくて、一緒に楽しんで戦っている」。その裏6点を失い、最終的には8-11で敗れたものの「終わったときに不思議と何の悔しさもなかった。こんなドラマチックな終わり方をさせてくれて、子供たちに感謝です。2年前は地獄、今は天国だ、と」。

 12年3月に定年退職となり、野球部の監督も引退。今後は教育評論家として活動していく予定で、「(物腰柔らかい)尾木ママとは違う立場から、意見を発信していきたい」と意気込んだ。

 野球好きで知られ、プライベートでトークライブを訪れたお笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建(39)は「ライブでしか聞けない話ばかりでしたね」と感激しきり。「もし僕に子供がいてグレちゃったら、監督に預けたいかも」と教育者としての野々村氏にも心服していた。

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