ジョージア魂賞に亀井 信頼取り戻した“自らの力”でさらなる貢献を

[ 2012年6月5日 09:30 ]

ジョージア魂賞を受賞した巨人・亀井

 勝利に最も貢献したプレーをした選手を表彰する「ジョージア魂賞」の今シーズン第3回(5月上期)受賞者は巨人の亀井に決まった。5月2日の広島戦で守備のミスを犯し、チームが敗れたが、翌3日の同カードで汚名返上の決勝本塁打を放った。スポーツライターの二宮清純氏が書く、名誉挽回となった決勝弾の興奮ドラマとは。

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 悔しさを晴らした喜びと、大仕事をやってのけた高揚感で、その夜は眠れなかったのではないか。

 5月3日、本拠地・東京ドームでの広島戦。8回裏2死無走者、3対3の同点の場面で打席には7番・亀井義行が入った。マウンドには長身のキャム・ミコライオ。2階から投げ下ろすような150キロを超えるストレートを売り物にしている。

 カウント3-1からの甘いストレートを亀井は見逃さなかった。飛ばないと評判のボールを左中間スタンドへ。値千金の勝ち越し弾。このソロホームランが決勝点となり、巨人は接戦をものにした。

 16勝4敗3分け。これが巨人の5月の成績である。破竹の10連勝(3分けを挟む)は亀井の劇的なホームランが飛び出した3日後からスタートした。この一発が気付け薬の役割を果たしたのである。

 前日、亀井は失意のどん底にあった。敗戦に結び付く手痛いミスを犯し、原辰徳監督から痛烈な非難を浴びた。「信じがたい。攻撃的な守備でないというか、どういう言葉で形容していいかわからないくらい、見苦しい守備だった。一晩中寝られないくらい、悔しがらないとダメだな」。奮起を促す狙いがあったにしても、指揮官の怒りは沸点を超えていた。

  俊足、強肩、加えて広い守備範囲。09年の第2回WBCでは外野守備のスペシャリストとして、連覇を果たした「侍ジャパン」のメンバーにその名を連ねた。

  「それほどの男が、なんだ、あの守備は!?」。口にこそ出さないが、抜け殻のようなプレーに指揮官は我慢ならなかったのである。

 そんな時、部下はどう振る舞うべきか。終わったことを嘆いても仕方がない。上司に自らの非を詫びたところで、問題は何も解決しない。一にも二にも失った信頼は、自らの力で取り戻すしかないのだ。そして、それこそが生き馬の目を抜く勝負の世界に生きる男たちの誇り高き掟なのである。

 ベンチ前で指揮官は破顔一笑してヒーローを迎えた。まるでドラマの前編と後編を見ているような2日間。こんな結末を誰が予想しただろう。「まだ貸しがたくさんあるよ」と指揮官。ムチを緩めないのは、チームにさらなる貢献を求める期待の裏返しに違いない。

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2012年6月5日のニュース