「エノキの26球」や!9回無死満塁から代打3人斬り

[ 2012年5月1日 11:51 ]

<巨・神>9回無死満塁からのサヨナラのピンチを乗り切り、ガッツポーズの阪神・榎田

セ・リーグ 阪神0―0巨人

(4月30日 東京D)
 阪神が延長11回の死闘の末、巨人と0―0で引き分けた。両球団による同スコア決着は1リーグ時代の1943年11月7日以来、実に69年ぶり。この歴史的一戦を演出したのが9回に登板した榎田大樹投手(25)だ。無死満塁の大ピンチを招いたが、無失点に切り抜けた。球史に残る右の代打3人斬りだった。

 飛球の行方を、もう追う必要はなかった。鈍い打球音が響いた瞬間、左拳をグッと握りしめる。「いっぱいいっぱいだったので自然と出た」。二塁・平野が白球をつかむと、榎田はその表情を緩め、ベンチへと引き揚げる。帽子を取り、喝采の中、ナイン全員とハイタッチ。大粒の汗をぬぐうその顔からは、崖っぷちから生還した安堵(あんど)感があふれていた。

 「最悪です。開き直ったっていうか、自分でどうにかしないといけないと思った」

 0―0の9回。阿部にフルカウントからの7球目を右前打されると、村田には2球目を右翼・マートンの追い方がまずかったために招いた不運な二塁打で、無死二、三塁。続く高橋由を敬遠四球で塁をすべて埋めた。大きな外野フライでもボテボテのゴロでも四死球でも暴投でもサヨナラ負けの絶体絶命の大ピンチ。ここで残された道は、自分を信じて腕を振ることしかなかった。

 「谷さんへのイメージは悪くなかった。コントロールできる球で、一番自信のある球だった」

 フルカウントまで粘られ、ボール球さえ許されない状況で、代打1番手を8球目内角の129キロカットボールで空振り三振に斬った。続いて打席に入るのは前日29日の試合で先制適時打を放っている代打・加治前。あっさり追い込むと、またも4球目カットボールで浅い右飛。

 2死までこぎつけた。もう榎田のペースだ。油断さえしなければ問題ない。3人目の代打・実松は初球のストレートを振らせ、二飛に。虎党が、ナインが、手に汗握った26球。勝利への執念が勝った瞬間だった。

 「満塁」には苦い思い出がつきまとう。昨年9月27日の神宮球場のヤクルト戦。4―4の6回2死満塁で、2ボールから逆球ストレートを川端に被弾した。CS進出が遠のく4点。自分を責めた。あんな思いはもうしたくない―。屈辱を、今の力に変えてみせた。

 「アイツは本当に応援したくなるんですよね。それくらい真剣に野球に取り組んでいる」

 ライバルになるべき、ある若手投手が榎田に対して言った言葉だ。プロの世界では“ご法度”なのかもしれない。それでもそう思わせるだけの魅力、実力がその左腕には詰まっている。

 和田監督からも「絶体絶命というところで、踏ん張れば何が起きるか分からないというのを証明してくれた」と奮闘を称えられた。この日の“世紀を超えた激闘”も含め、4月26試合で4つ目の引き分け。打線が眠っていても、投手陣が踏ん張る。相互に支え合う虎。3連戦で一つも勝てなかった借りは、4日からの聖地決戦でたっぷりお返しすればいい。

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2012年5月1日のニュース