悪夢から17日…東北“藍パワー”で出陣!

[ 2011年3月28日 06:00 ]

初戦を前に、調整する東北の選手

第83回選抜高校野球 大垣日大-東北 

(3月28日 甲子園)
 東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県から出場の東北が28日、いよいよ甲子園に登場する。1回戦の相手は昨秋東海大会王者の強豪・大垣日大(岐阜)。被災地の期待を背負いながら、野球ができる喜びを胸に抱いたナインの春がスタートする。

 あの悪夢から17日。ようやく憧れの甲子園でプレーできる。西宮市内のグラウンドで約2時間、汗を流した上村主将は気持ちを切り替えて前だけを向いた。

 「自分たちが被災者の方を勇気づけられるとは思っていないですけど、頑張ろうと思ってくれることを祈って全力でプレーしたい」

 震災後は、地元のあまりの惨状に一度は大会出場を諦めさえした。練習どころではなく、部員全員で仙台市内の給水所などでボランティア活動に従事。移動のメドが立たずに15日の抽選会も欠席した。日本高野連の配慮で初戦は1回戦最後となる大会6日目の第1試合となったが、実戦不足で調整不足は否めない。

 大会開催が決まってからも、ナインは野球をやっていていいのかどうか悩み苦しんできた。無言の重圧、使命感にさいなまれていたチームを救ったのが、前夜宿舎に届いた一通のFAXだった。

 「被災者のために、と言われてると思うけど、自分たちの力でつかんだチャンスなのだから自分たちのために頑張って」

 差出人は同校OGのプロゴルファー、宮里藍。宿舎食堂で背番号12の戸羽がその文面を代読するとナインの表情が和らいだ。「少し気持ちが楽になりました」と上村主将。誰かのためでなく、自分たちのために野球をやっていい。それを世界の舞台で活躍する先輩が教えてくれた。

 周囲もできる限りのバックアップ態勢を整えている。生徒会や家族ら、宮城県内から約1000人の大応援団が甲子園に駆けつける。仙台市内の同校では食堂を開放して町内会の住民や居残り組の生徒、教員が画面越しに声援を送る。さらに関西在住の東北各県の県人会、元監督の若生正広監督率いる九州国際大付の応援団。そして16年前の阪神大震災を経験した神港学園や育英など、兵庫県内10校の野球部員もアルプス席に駆けつける。

 「勝負にこだわるのは僕だけでいい。選手は思い切り楽しませてやりたい」と五十嵐征彦監督は話した。相手は優勝候補の一角に挙げられる強豪だが上村主将は「今、自分たちにやれることは野球しかない」。勝敗は後からついてくる。まずはチーム一丸となって、精いっぱいの力で相手に立ち向かう。

 ≪スタンドに感謝の横断幕≫東北野球部OB会の阿部義浩会長(48)が横断幕を携えてナインを激励した。自費で作製したという2本の横断幕には「がんばろう東北!がんばろう宮城!」「生きる力!ありがとうございます!」の文字が書かれている。大会規定でアルプス席には1本しか掲出できないが「支援物資などを送ってくださった方に感謝の気持ちを伝えたかった。スタンドには交互に張ろうと思います」と話していた。

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2011年3月28日のニュース