根回しできていたはず…想定外だった政府の自粛要請

[ 2011年3月25日 10:10 ]

 【記者の目】セ・リーグがパ・リーグに屈し、再延期を決めたことに、巨人球団代表・清武英利は「2つの要因」をあげた。「電力事情であらためて(政府の)自粛要請を受けたこと。4月12日の件で言えば、選手たちの心ですね」

  感情はやはり大きな問題だった。だから選手会との窓口、選手関係委員長でもある清武は「心」を強調した。「選手会=世間」。世情の後押し、セへの逆風は強かった。

 わずか4日間の延期を決めた際は文科相・高木義明から「国民の理解を得られていない」と切られた。巨人・読売を通じて、根回しできていたはずの政府筋から差し戻しをくったのは想定外だった。コミッショナー・加藤良三も「どうなっているんだ」といら立ったほどだ。目には見えない心を読めず、国民感情を無視した強引さがあった。

 背景に金の損得勘定があった。セ各球団は腹の内で早期開幕や東京ドーム開催での収益を見込んでいた。赤字で身売りの危険性にさらされる球団は多い。確かに清武が言った「経済活動を停止したら日本は沈没する」は一理ある。広島や阪神も「やれる所はやる」と主張していた。広島球団本部長・鈴木清明はこの日「道理が通らぬ」と不満ながらに出席した。

 だが、節電啓発担当相・蓮舫はずばり「商業主義ととられますよ」と警告、見透かされた。有事に「金で買えない」心が勝ったこの結果は、捨てたものではない。

 清武の「2つの要因」に加え、あるセ首脳は「阪神の寝返りが大きい」と言った。近年の躍進で発言力の増した阪神は世情を悟り、18日ごろから強行派の巨人に譲歩への説得を行っていた。セの強行姿勢をけん引していた巨人も「このままではセは見放される」との警告を聞き入れた。

 「問題は巨人・読売の内部調整だった」との証言がある。巨人オーナー・滝鼻卓雄が前夜漏らした「オーナーは1人」は自らかたくなな社内上層部を黙らせる決意表明に聞こえた、とも聞いた。

 二転三転したセの失態でファン離れが案じられる。だが問題点が浮き彫りとなり、「球界一丸」を打ち出せた点に救いを見たい。=敬称略=(編集委員 内田雅也)

続きを表示

2011年3月25日のニュース