斎藤 涙の有終初V!「こういう形で終われて幸せ」

[ 2010年11月19日 06:00 ]

秋空の広がる神宮球場で、優勝した早大・斎藤(中央)はナインとともにスタンドの応援団に向かって万歳で喜び合う

 斎藤が有終の美を飾った。第41回明治神宮野球大会最終日は18日、神宮球場で決勝を行い、大学の部の決勝は早大が東海大に2―1で逆転勝ちして大会初優勝。ドラフトで日本ハムから1位指名された斎藤佑樹投手(4年)は、9回から3番手で登板すると3人斬りで胴上げ投手に輝くとともに、福井優―大石と「ドラ1」リレーでアマ野球最後の試合を締めくくった。伝統校の第100代主将としてチームを引っ張ってきた斎藤は試合後に号泣。ナインの手で3度宙を舞い、喜びをかみしめた右腕は胸を張って次のステージへと進む。

【試合結果


 4年間の思い出が走馬灯のようによみがえった。慣れ親しんだ神宮での出来事が胸を去来する。終わった。やり切った。主将として前に進み出た斎藤は、応援席に深々と頭を下げた。お辞儀を終えた顔からは大粒の涙がこぼれていた。

 「最後にこういう形で終われて幸せ者だと思います。今、言えることは大学を選んでというか、早稲田に来て本当によかったと感じています」

 絵に描いたようなストーリーを自らの手で完結させた。福井優―大石とつないで1点リードで迎えた9回。応武監督から「最後はマウンドにいてほしい」と指令を受けてマウンドに立った。アマ球界ラスト登板は2者連続三振で簡単に2死。最後は代打・市川を三ゴロに抑えて試合終了。全12球。あの夏と同じように、マウンドでガッツポーズする斎藤のもとにナインが一目散に駆けつけた。「気持ちよかった。福井が先発して大石がつないで自分が立てる状況をつくってくれた。チームメートに感謝したい」と心から仲間に頭を下げた。

 神宮のファンを魅了し続けた斎藤佑樹の魅力。それは人の心をひきつける「人間力」にあった。入学前の2月。鳴り物入りで練習に参加した斎藤に対して、上級生たちは腫れ物にさわるように接した。ところが、ある日の練習で本塁に滑り込んだが、そのヘッドスライディングは見事なまでに不格好。周囲は大爆笑で当時4年生の国府学生コーチは「あれで斎藤が普通のやつと分かって、上級生との距離が縮まった」。意識せずに、時には平気で不格好になる。主将就任後は「バカになって声を出そう」を合言葉に、練習で声をからした。キャンパス内で見知らぬ学生から突然声をかけられても「神宮に見に来てください」と嫌がるそぶりも見せずに対応した。ドラフト会見で「息子を取られるような気持ち」と話した応武監督。「自分のチームの選手よりかわいい」と口をそろえる大学日本代表監督を務めた青学大・河原井監督と近大・榎本監督。飾らない人柄で周囲の人の心をいつの間にか、つかんでいるのが斎藤だ。

 その人間力は斎藤を指名した日本ハムも高く評価する。ネット裏で見守った大渕スカウトディレクターも「初めて会う人にも両手で包み込むように握手したりする。その場の状況を把握する能力、それに対し問題を解決する能力は他の人にはないもの」と話した。
 「4年間で出た答えは一生懸命頑張ること。そうすれば神様が最後にご褒美をくれると思います」と振り返った斎藤。学生最後の大会で優勝、胴上げ投手にもなった。やはり「何か」を持っているのか――。「確かに持ってないと言ったらウソになるかもしれません」。神宮の不世出のスターは、そう言ってさわやかに学生野球に別れを告げた。

 ≪文武両道4年間貫いた≫斎藤は、早大進学を決めた際に掲げた文武両道を4年間しっかりと貫いた。「野球だけでなく人間として幅を広げたい」として、幅広い分野を勉強できる教育学部を選択。授業にも休まず出席し、ゼミでは資産運用や投資などに関する金融工学などを熱心に勉強。今後は野球をテーマとした卒業論文にも取りかかる。斎藤の授業を担当し、教育学部長も務めた藁谷(わらがい)教授は「斎藤くんは授業にもしっかりと出席して、成績もいいです」と斎藤家に話していたという。大学の成績表は実家に送られることになっているが、父・寿孝さんは「ギリギリの評価のものはないし、単位もほとんど取っていた。模範的な学生ですよ」として、最も重要視していた文武両道を実践してくれたことを喜んでいた。

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2010年11月19日のニュース