【内田雅也の追球】「刮目相待」の大舞台 目を見張る急成長を続け、化けた湯浅

[ 2022年10月9日 08:00 ]

セCSファーストステージ第1戦   阪神2-0DeNA ( 2022年10月8日    横浜 )

セCS1<D・神> 8回途中から登板した湯浅(撮影・大森 寛明)
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 阪神・湯浅京己はマウンドから牧秀悟を見下ろしていた。本人にその気があったかどうか、相手4番をにらんでいた。

 2点リードの8回裏、2死一、二塁。シーズン中、クローザーを務めた岩崎優が招いたピンチだった。クライマックスシリーズ(CS)の大舞台、退任が迫る監督・矢野燿大の決断が光る。初めてセットアッパーと入れ替えて抜てきしたのだ。

 投手―打者の勝負は「プイッと目をそらした方がどうしても不利になる」と、江夏豊が『新撰組読本』(文藝春秋)で作家・浅田次郎に語っている。「僕は王(貞治)さんにそう育てられた。あの王さんが大きな目でガーッとにらんできた」

 湯浅はヒーローインタビューで「バッターに向かっていくだけ」「絶対気持ちで負けない」と話した。闘志はにらんだ目と、立ち姿にあらわれていた。だから高め速球でも投げ損じの高めフォークでも空振りを奪い、三振に切ったのだ。

 イニングをまたいだ9回裏も封じ、自身初めてのセーブは4アウトを奪って決めた。それもCSで記したのである。

 大したものだ。1軍デビューの昨年は登板3試合。実質1年目の今季は8回に投げるセットアッパーとして43ホールド、最優秀中継ぎ投手賞のタイトルを獲得した。11月の侍ジャパン強化試合のメンバーに選ばれた。

 選んだ日本代表監督・栗山英樹はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向け「刮目相待(かつもくそうたい)」を座右の銘としている。成長や進歩を待ち望む、今までと違った目で見るといった意味だ。中国の故事に「立派な人は三日別れているだけで、もう目を見開いて見なければいけない」とある。

 シーズン最終戦(2日・甲子園)から6日目、23歳の若き右腕はもう立派なクローザーになっていた。目を見張る急成長を続け、化けたのだ。

 先に引用した書では新撰組に魅入られた江夏が「僕の空想の土方歳三は決してあきらめない人」と語っていた。今季の阪神ではないか。開幕9連敗、最低勝率・063などの泥沼から不屈の思いでつかんだ晴れ舞台だ。矢野が「どれだけ楽しめるか」と問いかけ、湯浅は「緊張したが楽しめた」と答えた。チームとしても、刮目すべき秋になった。=敬称略=(編集委員)

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2022年10月9日のニュース