ブライアント氏に捧げるレイカーズの優勝 チーム全体に人生のドラマが満載

[ 2020年10月12日 13:57 ]

NBAファイナル第6戦   レイカーズ106―93ヒート ( 2020年10月11日    オーランド )

笑顔でインタビューに応じるジェームズとデービス(AP)
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 ファイナルで自身4回目のMVPとなったレイカーズのレブロン・ジェームズ(35)は「チームを助けるために身も心もすべて捧げてきた。だからレイカーズという組織全体をリスペクトしてほしい。そして自分もね…」と語って喜びを爆発させた。2年前のオフにキャバリアーズから移籍。ジニー・バス・オーナー(59)に「このチームがかつていた場所(優勝)に戻れるために自分はここに来ました」と語っていた“キング”は、リーグ史上初めて異なる3チーム(ヒート、キャバリアーズ、レイカーズ)でファイナルのMVPとなり、セルティクスに並ぶ史上最多の17回目の優勝を名門チームにもたらした。

 バス・オーナーは「愛すべきコービー(故ブライアント氏)を失うという心が引き裂かれるような悲劇を乗り越えてここまでたどりつきました。このトロフィーはお互いを信じて一致団結し、信じられないことを成し遂げた快挙の証(あかし)です」とあいさつ。今年の1月26日にヘリコプターの墜落事故にあって41歳でこの世を去ったレイカーズのレジェンドがどこかで見守っているという思いと信念こそが、セルティクスとともに長年にわたってリーグを支えてきた西海岸の名門チームを“定位置”へと引き戻した。

 ジェームズは1月25日、遠征先のフィラデルフィアでの76ers戦で歴代5位だったブライアント氏の通算得点記録(3万3643)を更新。26日早朝にはブライアント氏自身からそれを祝福する電話を受けていた。悲報を受け取ったのは移動で搭乗したチーム専用機の中。仮眠をとっているところをチームメートのアンソニー・デービス(27)に起こされてぼう然としたという。

 ロサンゼルスに到着してタラップを降りてきたときには目に涙。「その数時間前に祝福されたばかりだった。もう二度と話ができないと思うと悲しくてたまらない」というコメントを投稿し、その衝撃度の大きさから28日に予定されていたクリッパーズ戦は延期された。

 同じく命を奪われた次女ジアナさんらを含めた葬儀が営まれたのは2月24日。その悲しみがまだ癒えぬうちに今度は新型コロナウイルスの感染拡大がNBAを襲い、3月11日を最後にレギュラーシーズンは7月30日までの約4カ月間にわたって中断することになった。再開後も“事件”が起こった。ウィスコンシン州ミルウォーキー郊外のケノーシャで黒人男性が警察官に背後から7発の銃弾を浴びて重傷。ミルウォーキーを本拠にしていたNBAのバックスは8月26日に予定されていたプレーオフ1回戦(対マジック)の第5戦を開始直前にボイコットした。

 その後、抗議のボイコットはサッカーのMLS、女子プロバスケのWNBA、さらに大リーグにも波及し、テニスの大坂なおみ(22)も「ウエスタン・アンド・サザン・オープン」の決勝をボイコットする(その後、撤回)という事態となった。

 NBAの選手会はオーランドでの「延期&中断」のあとに再開することを投票で決めたが、ジェームズは「打ち切るべきだ」という反対派の1人だったと伝えられている。もしあのとき、選手会の総意として「王者なきシーズン」を選択していたのなら、この日のレイカーズの優勝もなかったことになる。

 ライジョン・ロンド(34)はセルティクスとレイカーズという東西の両名門チームで優勝した史上2人目の選手となり、フランク・ボーゲル監督(47)は就任1年目での戴冠。2012年のドラフト全体トップでペリカンズに指名されたデービスもジェームズと“合体”して移籍初年度で自身の初優勝にたどりついた。

 マジック時代にファイナル出場経験があるドワイト・ハワード(34)は黒人への差別問題と、自身の息子の母親でもあった元パートナーの急死という出来事と直面して苦悩。再開シーズンへの参加を最後まで保留していた1人でもあったが、リバウンド王5回、ブロックショット王2回、さらにジェームズ、デービスと同じドラフト全体トップ指名選手という肩書きに、デビューから16シーズン目で「ファイナル優勝メンバー」という新たな項目が加わった。

 スパーズとラプターズで優勝経験があるダニー・グリーン(33)もジェームズ同様に3チームでファイナル制覇(史上4人目)を達成。感染拡大の中で短期間で再開する方法と場所を見つけ出し、再開後に1人の感染判明者も出さなかったNBAの組織力と行動力も光ったシーズンだった。シーズンの開幕から閉幕まで史上最長の356日。ブライアント氏が天国で見届けた今季のファイナルは、多くのドラマを満載して幕を閉じた。

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