日本ボクシング連盟の騒動で考えさせられるスポーツ界の組織構造 権力者が存在しない米国との違い

[ 2018年8月4日 07:45 ]

日本ボクシング連盟の山根会長
Photo By スポニチ

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】助成金の流用や不正判定の疑惑をかけられている会長と300人を超える告発者。日本ボクシング連盟という組織の成熟度というのはもはやないに等しいようだ。なぜこうなる前に自浄作用が働かなかったのか?この疑問に対する答えが見つからなかったので、とりあえず組織形態がわかりやすい米国ボクシング連盟を調べてみた。

 2014年に会長職(正式な役職名はジェネラル・メンバーシップ・ディレクター)に就いたのは45年間の指導者歴があるジョン・ブラウン氏。就任時のあいさつを読むと「会長には今までこんなすごいことをやったんだ、などという飾った言葉は不要。透明性と偽りのない現実主義こそが組織をしっかりとしたものにしてくれる。基盤がぜい弱なのは熟知しているが、優秀なボクサーが私を問題解決へと導いてくれるだろう」と書いてある。この時点ですでに“日米格差”を感じてしまった。

 米国の多くのスポーツ組織で見られるように、米国ボクシング連盟にも会長には独裁的で突出した権力がない。ピラミッドの頂点に立っているのはブラウン会長を含む7人の理事。選手代表としてその中に入っているキャム・F・オーサム(本名レンロイ・トンプソン)はまだ30歳の若さだ。ボクシングとは無縁の第三者的な位置付けの独立系理事も2人。経歴を見ると、1人は海軍で情報システムの構築とデータ分析を担当している物理学者で、もう1人は複数の大学で体育局長職を務めた人物である。

 米国ボクシング連盟は7月23日に独立系理事2人の募集広告を出しているので、もしかしたら任期満了に伴う改選期なのかもしれない。

 とにかくUSOCと各競技の連盟同様、この組織も「誰かが誰かを見張ることができる」ように権力が微妙に分散されている。インターネットに公開されている組織形態を見ただけだが、情報がきちんと公開されていることだけは確かだ。

 ピラミッドの入り口?もガードが堅いようだ。米国ボクシング連盟の本部があるのは米国五輪委員会(USOC)があるコロラド州コロラドスプリングス。窓口となるその本部を取り仕切っているのはマイク・マカティー本部長なのだが、彼は12歳でジュニアの五輪に出場したこともある元アマ・ボクシングの選手。警察官となっても現役を続け、その後、指導者も務めたと自己紹介形式の経歴に記されていた。なにより驚くのは同本部長は特殊部隊「SWAT」のメンバーだったという部分。なので同本部長には必然的に“悪事”に対する抑止力?が見え隠れしている。

 巨大組織のNFLを率いるロジャー・グッデル・コミッショナー(59)は2019年からの5年間で2億ドル(約224億円)の報酬を得る。高額報酬に対しての風当たりは強いが、それでもきちんと実績を残さないと、彼はオーナー会議で解雇される立場にいる。1982年にインターンとしてNFLに入り、組織のトップを極めた生え抜きのリーダーではあるが、独裁色を強めるとすぐに全32チームのオーナーから“怒りの鉄拳”が飛んでくるだろう。

 NBAのコミッショナーは現職のアダム・シルバー(56)で4代目だが、デビッド・スターン前コミッショナー(75)を含め1984年以降は弁護士経験者が組織を引っ張っている。筆者はスターン・コミッショナーをインタビューしたことがあるが、初対面の記者に対して高飛車な態度はみじんも見せなかった。逆にその物腰の低さにこちらが驚いたほど。もちろんビジネス・トークになると厳しい姿勢を貫くのだろうが、少なくともメディアと対応するシチュエーションで、選手や関係者を罵倒したりはしなかった。

 スポーツは選手、指導者、ファンと風通しのいい組織と透明な資金があって初めて成立する。そのすべてをつなげるのが連盟の会長の職責であり、不都合な事実を他人の責任にしてはならない。そしてその一線を越えたなら、組織そのものが当事者に対して“退場”を宣告するべきだろう。そのスイッチが存在しないのが、今の日本ボクシング連盟の姿であるように見える。

 もちろん日本と世界のどの連盟もすべてが完全にクリーンであるとは思わない。正義が邪悪な権力につぶされるのも今に始まったことでもないだろう。ただ今回の一件は多くの告発者を出したという点で、他のケースとは性質を異にしている。ここまで放置した責任は彼らにもあるとは思うが、できるだけ早く健全な組織にしてほしいと思う。ダウンしても、すぐに立ち上がれば戦えるのがボクシングという競技であるはずだから…。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。今年の東京マラソンは4時間39分で完走。

続きを表示

2018年8月4日のニュース