友野一希の背中に魂が宿った!ミラノ世界フィギュア激写日記(1)

[ 2018年3月30日 08:00 ]

<世界フィギュア男子>昨年8月、日光東照宮で三猿の下で「見ザル」ポーズの友野一希選手。指の間から世界を見ていた?(撮影・長久保 豊)
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 【長久保豊の撮ってもいい?話】躍り出たニュースターの周囲には常に人垣が出来ていた。ようやく話しかけられたのは彼がキス&クライで拳を突き上げてから24時間も経った後だった。

「背中、きれいだったよ」。なんとも間の抜けた問いかけに彼、友野一希は「そうですか!」とうれしそうに、そして照れたような笑みを浮かべた。

 SP、フリーともに奇跡の演技だった。いや彼の本来の実力からすれば当然の結果なのだが、何しろミラノ入りした直後の練習内容がひどすぎた。連戦の疲れもあったのだろう、4回転?とんでもない、3回転アクセル?抜けまくり、ステップ?ありゃま、ってな感じだった。加えて宇野昌磨選手の深刻な負傷、田中刑事選手には新調した靴の不安も伝えられた。現地の報道陣の間では3枠?とんでもない、2枠?何とか、1枠もありえるという話までがささやかれていた。

 迎えた男子SP。スタート位置に向かう彼の表情と姿勢を見たときに私が抱えていた不安は一層強くなった。あの美しい背中はどこいっちゃったんだ。

 昨夏のアイスショーで私は彼の進化を感じていた。この選手は化けるぞ、と。それまでのイメージは「犬のおまわりさん」。強烈な?印象を残したエキシビションの選手であった。だが今季は背中が強く、美しくなっていた。以前にも書いたが強い選手は背中が強い。美しい選手は背中が美しい。伸びる選手は背中が決まりだした選手。ファインダーを通して見た印象で恐縮だが、彼の背中が決まりだしたのだ。

 だが不安もあった。8月の日光東照宮、現地でのアイスショーを前に他の選手らと三猿の下で記念撮影。真っ先に「見ザル」のポーズを取ってしまったのが彼である。「今年はシニアデビューなんだから顔を隠しちゃだめでしょ」と言ったら「ボクはこれでいいんです」。

 競技者として進化を妨げるものがあるとすればこの辺かな、と思った。

 揺れる日の丸に見守られ彼はミラノのスタート位置についた。冒頭の4回転サルコウを決めると、あの美しい背中が帰ってきた。もう彼は大丈夫だとその時に確信した。

 「自分が上手くなっていることに気がついていないのかな。彼はネガティブなことばかり言うんだよ」。報道陣の1人が言った。今までの彼にはそういう部分があったらしい。

 だがミラノで、世界選手権であれだけの演技ができたんだ。これからはネガティブな発言は言わザル、ネガティブな意見は聞かザルでいけばいい。

 東照宮、三猿の下での写真を拡大してよく見てみると指の間からしっかり前を見ていた。そう世界のトップを見ていけばいい。友野一希、来季が楽しみだ。(写真部長)

 ◆長久保豊(ながくぼ・ゆたか)1962年2月生まれ。友野選手にかぶってもらおうとミラノのおまわりさんに「帽子を借せ」と言って断られた56歳。へこたれません撮るまでは。

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