トヨタ自動車チェアスキー開発 軽くて強い「芸術レベル」のフレーム

[ 2018年3月14日 09:30 ]

パラアスリートを支える(5)

開発したチェアスキーを前にガッツポーズする榎本さん(左)と山田さん
Photo By スポニチ

 アルペンスキー男子座位の森井大輝(37=トヨタ自動車)が競技の心臓部に位置付けるチェアスキー。その開発に「世界のトヨタ」が一肌脱いだ。パラリンピックの頂点を獲るためにつくられた平昌仕様のマシンに乗り、悲願の金メダルへ。“アクセル全開”でゲレンデを駆る。

 同社がチェアスキー開発に乗り出したのは15年7月。14年ソチ大会で銀メダルを獲得した森井が、同年8月にトヨタ自動車へ入社したことでプロジェクトが動きだした。

 開発に携わったのは同社の榎本朋仁さんと車いすメーカー日進医療器の山田賀久さんを中心とするチーム。当初は2、3人で始め、開発規模が見えてきたところで人員を補充。トヨタが自動車開発で培った技術を存分に生かすべく空力特性を解析する部隊を加えたり、延べ40人が森井を後押しした。森井が真っ先に求めたものがフレームの剛性と軽さだった。山田さんは「軽くして剛性を上げる。相反するところだった」と開発の難しさを語る。

 試行錯誤の末に試作第1弾は意外にも1本のバーだった。榎本さんは「いきなり全部を作ることはできないので、あるアタッチメントをつくったら2割剛性が上がった」と小さな試作品の性能が間違っていなかったことで、開発の方向性が定まった。その後も開発を重ね、フレームだけで約15%の軽量化に成功。剛性は3倍強くなったという。森井の要求に見合う、平昌モデル「隼」が完成した。

 極限まで肉抜きされたフレームは芸術と呼べるレベルに達した。「彼が追い求めているカービングターンで気持ちいい滑りを実現してほしい」と山田さん。榎本さんは「勝ってほしいが、一番は本気で楽しんでほしい」。技術者たちの思いが込められた、最高のチェアスキーが最速を狙う男に託された。

続きを表示

この記事のフォト

2018年3月14日のニュース