見せしめ?前代未聞「両者反則負け」を教訓とすべきこと

[ 2018年3月4日 10:30 ]

GSデュッセルドルフ大会の男子100キロ超級決勝で、両者反則負けでともに準優勝となった原沢久喜(左)と王子谷剛志
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 たとえばボクシングでは軽量級には軽量級の、中量級には中量級の、そして重量級には重量級の魅力がある。筆者はボクシング担当ではないゆえ、年に数回手伝いで取材する試合は全て世界戦。井上尚弥の君臨するスーパーフライ級のスピード感あふれる攻防には目を奪われるし、村田諒太のミドル級では、パンチのヒット音は軽量級のそれよりもはるかに迫力がある。人によって好みは分かれるだろうが、同じルールで裁かれていても、それぞれの魅力があるところが階級制スポーツの醍醐味ではないだろうか。

 柔道もそうだろう。軽量級の組み手争いは、まるでボクシングのジャブの差し合いを見ているかのよう。一瞬にして相手を畳に叩き付ける技の早さも重量級は及ばない。一方で重量級は目に留まらないほどの組み手争いは珍しい。むしろがっぷりと組んでからの力勝負が魅力で、手に汗握ること間違いなし。きれいに技が決まることは少ないが、決まった時の迫力は、軽量級を凌駕するものがある。

 そうした階級ごとの特性を理解し引き出すことが、試合を裁く審判にとっては重要と考えるが、そうではない事例が発生した。先日行われたグランドスラム(GS)デュッセルドルフ大会の男子100キロ超級決勝は、指導3による両者反則負けという結果になった。

 対戦したのはリオ五輪銀メダリストの原沢久喜と、全日本選手権を2連覇中の王子谷剛志(旭化成)。同学年で高校時代から対戦を繰り返し、小川雄勢(明大)ら若手が台頭してきた現状であっても、20年東京五輪の代表争いは2人抜きには考えられない。互いを知り尽くす者同士、直接対決で絶対に負けられないという意地もあってか、確かに試合序盤から動きのない状態が続いた。38秒で1つ目の両者指導、1分16秒で2つ目の両者指導が飛んでも戦況は動かず、1分49秒で「待て」が掛かり、前代未聞の決着となった。

 現行のルールでは起こり得る結果ではあったが、大会の最後に行われる男子最重量級の決勝で、このような厳しい裁きが下されることを、お互いに想定はしていなかっただろう。王子谷は「両者反則負けになる前に審判から何らかのアクションがあると聞いていた。実際にはなかった」と戸惑ってはいたが、後の祭りだ。一方で1分49秒というあまりに早い決着には違和感も覚える。GSは格の高い国際大会とはいえ、五輪や世界選手権とは比べるべくもない。国際柔道連盟(IJF)や大会の審判団から、見せしめ的に判定を下されたという疑念もぬぐえない。

 選手を預かる男子日本代表の井上康生監督も今回の結果に「これでいいのかと言えば疑問が残る。重量級には一発の魅力がある。技を出す前に止められると良さが消える」と危機感を口にした。原沢がリネール(フランス)に敗れたリオデジャネイロ五輪決勝に端を発したルール改正は「積極的な攻撃を促し、柔道の魅力向上」が目的だったはず。逆行とも言える結果は偶然か、あるいは必然だったのか。

 誰もが「まさか、五輪ではないだろう」と思う結果を招かないためにも、柔道界全体で再検証するべき時期が来ているのは間違いない。(阿部 令)

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