女子モーグル今そこにある危機 里谷、上村からの伝統はつながるか

[ 2017年12月5日 10:20 ]

上村愛子さん(右)と星野純子
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 あとずさりするような急なコブ斜面を泳ぐようにスイスイ滑り降り、その途中でアクロバティックに宙を舞う。世界的に見てもメジャースポーツとは言えないフリースタイルスキーのモーグルだが、日本では五輪のたびに注目される競技であり続けてきた。

 98年長野五輪で里谷多英が日本女子初の冬季五輪金メダルを獲得し、その後釜を上村愛子が担った。前回のソチ五輪で上村が引退した後も、今回は堀島行真(19=中京大)が日本男子初の世界王者となって初めての五輪に臨む。また注目を集めることだろう。

 ただし、ひとつ気がかりな点がある。女子で全日本スキー連盟(SAJ)の五輪派遣基準を満たす選手がまだ1人もいないのである。

 里谷、上村の次を担うはずだった伊藤みき(30=北野建設)は、ソチ五輪シーズンに右膝に重傷を負い、1年以上の離脱を経て復帰した今もまだトップフォームには戻っていない。伊藤の後に台頭した星野純子(28=リステル)も昨年1月に左膝のケガがあり、復帰に1年を要した。10代の若手もいるとはいえ、トップレベルにはあと一歩。伊藤や星野の奮起なくしては、女子モーグルの派遣なしという事態もあり得るのである。

 ただし切羽詰まった状況ながら、シーズンを迎える彼女たちの表情は意外と明るかった。

 「こういうワクワクドキドキは初めて。これこそまさに選手の本質。4年に一度の五輪に出られるかどうか。今が一番選手として面白みがあると思うし、生き様を見せられる」

 メダル候補として準備してきたこれまでの五輪とは違う。吹っ切れた笑顔を見せる伊藤は、その挑戦を楽しんでいるようだった。

 上村さんもコーチとして参加したシーズン前の合宿では「自分が一番行きたいところに行くために最善の努力をしてほしい」と激励され、客観的な目線での技術面のアドバイスをもらったという。

 星野も上村さんに「自信を持って力強く滑れてるからいいね」と背中を押され、練習への向き合い方などでも助言を受けた。「昨シーズンは膝への不安があって思い切りスキーに乗れなかった。膝は良くなる一方で、もうケガをする前とほぼ一緒。去年はガツッ!と滑れなかったけど、今は闘争心メラメラ」と開幕を待ち構えている。

 SAJの五輪派遣基準は、昨季と今季における世界レベルの評価対象競技会(W杯、世界選手権)で(1)8位以内1回(2)10位以内2回(3)12位以内3回のいずれかの条件を満たすこと。「飛行機でも、電車でも、這ってでも、とりあえず五輪にたどり着ければいい」と伊藤は言った。W杯は9日のフィンランド大会から開幕する。五輪まで、残されたチャンスは7大会のみである。(雨宮 圭吾)

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2017年12月5日のニュース