サンウルブズの“秩父宮ラグビーパーク化構想”は大きな第一歩

[ 2017年11月30日 16:36 ]

秩父宮ラグビー場で記念撮影するサンウルブズフィフティーン
Photo By スポニチ

 ベストな競技場とは言えないが、なかなか刺激的な空間だった。

 11月25日にラグビー日本代表がフランスと対戦したパリ郊外ナンテールにあるUアリーナ。10月に開場し、こけら落としはローリング・ストーンズのツアーだったが、スポーツイベントとしては日本が23―23で引き分けた今回の一戦が初めてだった。今後はフランス1部リーグ「トップ14」のラシン92の本拠として使用されることになる。

 特徴は屋根が開閉できない完全な屋内スタジアムであること、ゆえにグラウンド表面は巻き取り式の人工芝であること、字の通り「U」型に配置された観客席と、観客席のない一辺に配置された超巨大スクリーンだろう。屋根や座席、床に至るまで黒で統一されており、視覚的には暗く感じて慣れなかったが、一方でグラウンド上でのプレーに集中しやすかった。何より国内には同様のスタジアムはなく、新鮮さがあった。

 試合の3日前、サンウルブズのチーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)に就任したプロ野球DeNA前球団社長の池田純氏の会見を取材した。どんな内容かと注目していたが、その大部分は秩父宮ラグビー場に人を呼ぶための新たな構想の発表だった。世界観は「でっかいパブ」で、試合以外にも楽しめる施設を設置することでラグビーパーク化を目指すという。

 池田氏自身も十分承知していたが、秩父宮ラグビー場の持ち主はあくまで日本スポーツ振興センター(JSC)。残念ながら日本ラグビー協会や関東ラグビー協会でさえ、優先的に貸してもらっている立場に過ぎない。したがって、どんなに夢のある構想を描いても、JSCの協力や同意がなければ何も実現できないはずだが、同氏は「横浜DeNAも元々何もできなかったが、最終的に(球場の)買収までできた。まずできることからやって、少しずつ実現していく」と言った。

 2020年東京五輪で秩父宮ラグビー場が駐車場利用されるとの計画が明るみになって以降、日本協会幹部には何度も代替スタジアム案や現在の神宮第2球場の位置に計画されている新ラグビー場の計画について質問をぶつけたが、「ラグビー場はJSCの持ち物なので」という通り一遍の発言しか聞こえてこなかった。もちろん水面下でJSCとしっかりタッグを組んで計画を進めていれば問題ないのだが、あまりに他人事発言が多かった。

 そういう意味で今回の池田氏の構想、本人も「自分たちがコントロールできないものをどうこう言うのはハレーション(悪い影響)になる」と話していたが、サンウルブズとして将来への構想をしっかり世に示したことは大きな第一歩だろうと思う。本来は日本協会がイニシアチブを取るべきと思うが、興行面でも意欲的なジャパンエスアール(サンウルブズの運営母体)がイニシアチブを取れば、もっと魅力的なラグビー場ができるのではないかという期待感もある。

 いつの頃からか意識的に、原稿上で秩父宮や花園ラグビー場を「聖地」と表現しないようにしている。歴史や伝統の重みは承知しているが、ハコモノとしての魅力を一切感じないからだ。Uアリーナで感じたようなドキドキ感を、日本国内のラグビー場でも感じてみたい。(阿部 令)

続きを表示

2017年11月30日のニュース