30年前の中国スポーツ界で何が行われていたのか。ぜひ解明を

[ 2017年10月28日 10:00 ]

1994年の広島アジア大会で、国際水連の抜き打ちドーピング検査の後”不自然なフライング”で失格となった中国女子競泳のエース楽靖宜 (共同)
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 【藤山健二の独立独歩】ロシアに続き、中国にも過去のドーピング疑惑が持ち上がった。中国代表チームの元医師という女性がドイツ公共放送ARDに告発したもので、80〜90年代に中国ではドーピングが横行しており、その間1万人以上の選手が関与していたという。これを受けて世界反ドーピング機関(WADA)は独立部門による調査を表明。真相の解明に乗り出した。

 正直なところ、今さら何をというのがこのニュースに接した時の最初の感想だった。当時の選手や指導者、取材していた記者の誰もが中国やソ連など旧東側諸国のドーピング違反を疑っていた。ただの疑いではなく、実際にたくさんの選手が違反で処分された。今でもよく覚えているのは94年の広島アジア大会だ。前回の北京アジア大会で中国の競泳女子は全種目を制覇。世界選手権(ローマ)でも16種目中12種目で優勝し、世界記録を連発した。あまりの強さに疑惑を抱いた国際水泳連盟(FINA)は当時はまだ珍しかった大量の抜き打ち検査を実施。広島大会でも中国の競泳女子は圧倒的な強さを見せたが、7人の選手から筋肉増強剤が検出され、レース後に失格となった。更に競泳以外の陸上、カヌー、自転車でも次々と違反が発覚。結局11人が失格となり、金15、銀7、銅1のメダルが剥奪されるという前代未聞のスキャンダルに発展した。

 当然、「国家ぐるみの違反ではないか」と指摘されたが、中国側はあくまでも「個人的な違反だ」と主張し続けた。当時はまだWADAは創設されておらず、現在のように独立した機関が調査することは不可能で、結局国家ぐるみの薬物使用にメスが入れられることはなかった。

 それから20年以上がたち、ドーピングを取り巻く環境は大きく変わった。技術の進歩でかつては検出できなかった薬物も過去にさかのぼって検出できるようになり、多くの選手のメダルが剥奪された。遅きに失した感は否めないが、それでも本当に当時の中国スポーツ界で何が起こっていたのかが明らかになるのなら、今回の医師の勇気ある告発は大きな価値がある。当の中国は翌95年にドーピング禁止に関する国内規定を制定。選手や指導者の意識改革に乗り出し、疑惑の払拭に努めてきた。その取り組みが正しかったという自信があるのなら、積極的に今回の調査に協力すべきだろう。

 今さら昔のことをほじくり返しても仕方がないという声もあるかもしれないが、同じ時代に中国選手と戦った日本や他国の選手にとっては「昔の話」では済まされない。今後のWADAによる調査でどんな新しい事実が判明するのか、当時最前線で取材していた記者の一人として固唾(かたず)をのんで見守りたい。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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