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ただ美しく真っ直ぐに立つ――オータムクラシック写真発掘日

オータムクラシックSPで音を待つ羽生結弦選手。この立ち姿、半端ない(撮影・小海途良幹)
Photo By スポニチ

 【長久保豊の撮ってもいい?話】ただ立っているだけの写真と思われるかも知れない。だからあえて言う。ただ美しく立つことがいかに難しいかを。筋肉が弛緩した状態というわけではない。丹田を中心として引っ張り合う指先や足先に至る力が拮抗しているからこその美しさなのだ。まぶしい視線を向ける彼は合気道の達人でも熟練の舞台役者でもない。22歳のフィギュアスケーターだ。

 やがてツィマーマンのピアノの旋律が忍びより彼は目を閉じる。

 そして「バラード1番」が始まる。

  ×  ×  ×

 ずいぶんと時間が過ぎてしまったが、小海途良幹カメラマンが持ち帰ったオータムクラシックの全写真データを見ることができた。彼の仕事ぶりを査定しようとしたわけではない。羽生結弦選手の「バラード1番」を初見の彼がどう撮ったかが知りたかっただけだ。特に連続ジャンプから続く最後のステップ。おそらくファインダーから飛び出しそうになる彼の躍動を追うのに必死で、ピントやら構図だとかは無茶苦茶だったと思う。オレもそうだったとニヤニヤしながら画像閲覧ソフトを立ち上げる。

 いつもならクリック連打で画像を進めて行くのだが、スタートポジションでいきなり手が止まった。2015―16シーズン、今年のファンタジーオンアイス幕張とは所作が違う。確か幕張までは頭を左下に傾け目を閉じていたはず。それが今回の大会では真正面に強い視線を向けている。そしてこの立ち姿だ。

 もう30年も前になる。暗室で「皿現像」の特訓をさせられた。文字通り、お皿に現像液と定着液を満たし36枚のロールフイルムから必要な場面が写っていると思われる4コマ分ほどをハサミで切り出して現像するのだ。締め切り間際の1分、1秒が勝負の世界、お目当ての写真が浮かび上がってくればそれでよし。他の32コマは振り返られることもない。

 「とにかくネットに早く上げてくれ!」と迫られる現代のカメラマンも皿現像時代と変わらない。SPならば2分40秒の記憶をコマ切れにして、決まったと思うシーンだけをパソコンで拡大表示、前後2〜3枚を比較して送信にかかる。皿現像の時代と違うのは決定的瞬間にハサミを入れてしまう心配がないこと、他のカットも見直す時間が多少あること。

 当日の紙面では連続ジャンプの後、両手を広げ上体をそらした写真が1面になった。それは私と小海途カメラマン、編集者の一致した意見だった。だが埋もれた写真データの中にこの立ち姿を見つけてしまった。リンクの白い部分に文字が1字かぶさっても破綻してしまう写真だから編集者は嫌がるだろう。でもノーミスの予感を身にまとう姿、これは間違いなくいい写真。保存用のハードディスクで眠らせるわけにはいかない。

 スケーターの演技が一期一会なら写真もまたしかり。今季、この立ち姿を真正面、彼の視線を受け止めるカメラポジションの設定はもうあるまい。ライバル諸兄、うちの小海途、結構やるだろ。オレが育てた!わけじゃないけど。(写真部長)

 ◆長久保豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれ。「結城真吾(柔道一直線)は足でピアノが弾けるんだぜ」と言って教室で凶行に及んだ同級生がいる55歳にツィマーマンを語るのは無理。しかもあれ、オルガンだったし。

[ 2017年10月8日 11:00 ]

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