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あるNFL選手の苦悩 トランプ大統領の発言がもたらしたスティーラーズの造反劇

たった1人で国歌吹奏のセレモニーに姿を現したスティーラーズのビラヌエバ (AP)
Photo By AP

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】「I threw my teammates under the bus」。意味は「チームメートをバスの下に押し込んだ」…ではない。試験に出たら「裏切った」と答えるべき慣用句。スポーツ界においてこのフレーズが出てくる時、事態はかなり深刻だ。口にしたのはスティーラーズのオフェンスラインを支える2メートル6、145キロの巨漢タックル、アレハンドロ・ビラヌエバ(29歳)。9月24日、彼は敵地シカゴで仲間を裏切った、いや、少なくとも彼自身はそう感じざるを得ない状況だった。

 警察官による黒人射殺事件が相次いだここ数年、「Black Lives Matter」(黒人の命だって大切)というフレーズが社会に浸透。NFLでは昨年、元49ersのQBコリン・キャパニック(29歳)らが試合前の国歌吹奏時に整列せずに膝をついて抗議の姿勢を示した。ただし、その抗議の矛先は警官であり、司法当局であり、そして数多く存在する人種差別主義者だった。

 ところが9月22日。トランプ大統領がアラバマ州ハンツビルで支援者を前にして「膝をつく“Son of a bitch(クソったれ)”はクビにしろ」とNFLの選手を罵倒してから様相が激変。子どもが言えば親に怒られるような言葉を一国のリーダーが大勢の人の前で口にして、この問題は「スポーツ界対大統領」という図式にシフトしてしまった。

 試合当日、テネシー州ナッシュビルではシーホークスとタイタンズの両チームは国歌吹奏で選手がフィールドに姿を見せなかった。整列しても胸に手を当てるのではなく隣の選手と腕を組むチーム、キャパニック同様に膝をつく選手もいて、各チームは方法は違っていてもほぼすべてが“反トランプ”を前面に押し出した。そしてスティーラーズは混乱を避けるために、セレモニーの際にはフィールドへの出口手前の通路で待機することを決断。マイク・トムリン監督(45)の指示のもと、全員がフィールドから姿を消す手はずになっていた。

 しかしビラヌエバは通路から抜け出し、出口から数メートル前で手を胸に当てた。たった1人の造反劇。そこには彼にしか分からない心の葛藤があった。

 スペイン人を両親に持つビラヌエバは、父が軍人だった影響で米ミシシッピ州の海軍基地で生まれた。そして陸軍士官学校に進学。陸軍大尉として従軍し、アフガニスタンに赴いている。「星条旗のために命を捧げる人間もいる。旗は兵士の象徴だ」。だからチームの主将でもあるQBベン・ロスリスバーガー(35歳)にひと言断ってから、星条旗と国歌を感じ取れる場所に少しでも近づこうとしたのだった。

 くしくも試合が行われたベアーズのホーム・スタジアム名は「ソルジャー・フィールド」。1925年11月11日、それまで「市立グラント公園スタジアム」と呼んでいたものを戦没者に敬意を表して改名された歴史があり、ここでセレモニーを拒絶すると、ビラヌエバにとっては自身のアイデンティティーを否定することになりかねなかった。

 信念を貫いた彼は試合後に謝罪している。「トムリン監督、チームメート、そしてスティーラーズに関わるすべての人の表情を曇らせてしまった。これは私のミスであり私の責任だ」。その一方で背番号78の陸軍大尉は、トランプ大統領の発言に関しては「最高司令官について自分は語る立場にはない」とひと言も感想を述べなかった。

 言葉を選ぶ、人の心を読む、間違ったなら頭を下げる…。なぜそれができないのだろう?本来なら謝罪などする必要のなかった“部下”に対し、ぜひとも最高司令官の意見を聞いてみたい。ビラヌエバがバスの下から仲間を救い出すには、大国のリーダーにふさわしい重厚な言葉が今こそ必要なのだ。(専門委員)

◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市小倉北区出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

[ 2017年9月29日 10:20 ]

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