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桐生の快挙で改めて考えたい 新国立競技場のレガシーとは

<日本学生陸上競技対校選手権大会最終日>閉会式後の記念撮影で笑顔をみせる桐生
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 【藤山健二の独立独歩】陸上男子100メートルの桐生祥秀(東洋大)がついに9秒98をマークした。ほんの数年前までは正直、日本選手が9秒台で走る日が本当に来るとは思ってもいなかった。陸上の100メートルはあらゆるスポーツの原点と言っても過言ではない。ボールや器具などは一切使わず、複雑なルールもない。ひたすらゴールを目指して走るだけ。競技人口は世界の全人口に近いと言ってもいい。もちろんスポーツである以上、技術の介在する余地はあるが、他の競技に比べて圧倒的に体力の差が出やすい。現にこれまで9秒台で走っているのは生まれつき身体能力に優れる黒人選手ばかりで、白人選手は極めて少ない。公式のアジア記録はカタールのフェミセウン・オグノデが持つ9秒91だが、オグノデはナイジェリアの出身。国籍を変更していない選手に限れば中国の蘇炳添が15年に9秒99を出すまで誰一人として10秒の壁を破ることはできなかった。それを日本人の桐生が、しかも9秒99より更に速い9秒98で走ったのだから、いかに凄いことか分かる。

 今夏の世界陸上の優勝タイムはジャスティン・ガトリン(米国)の9秒92で、桐生のタイムを単純に当てはめれば銅メダルのウサイン・ボルト(ジャマイカ)の9秒95に次ぐ。もちろん条件が異なるのでそう簡単には行かないが、3年後の東京五輪に向けて期待が大きく膨らんだのは確かだ。

 すでに取り壊された旧国立競技場では91年の世界陸上でカール・ルイス(米国)が9秒86の世界記録(当時)をマークしている。記録を出すには選手たちの努力はもちろんだが、トラックの素材や風も大きく影響する。現在の全天候型トラックは合成ゴム系とウレタン系に大別される。新国立競技場のトラックが最終的にどんな素材になるのかはまだ分からないが、グラウンドレベルでの風の強さや方向なども十分考慮した最新の高速トラックになるだろう。そこで桐生や他の日本選手がどんなドラマを見せてくれるのか、今から待ち遠しい。

 ただ残念なことに、新国立競技場は五輪後に球技専用場に改修される予定で、もし桐生や他の日本選手がファイナリストになっても、歴史的なトラックは引きはがされ、レガシーは何も残らない。陸上競技では採算が取れないと言われれば反論の余地はなく、桐生らがどんなに頑張ってもその流れを変えることは容易ではないだろう。

 ならばせめて記念のトラックはどこか他の競技場に移設するか、公園で展示するなど、レガシーを後世に伝える努力をしてもらいたい。日本人が100メートルで決勝に残るということは、それだけの価値が十分にあると思うのだが。 (編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

[ 2017年9月14日 10:30 ]

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