トップリーグ 移籍をめぐる決断と抵抗 選手もチームも泣きを見ないために

[ 2017年8月20日 09:26 ]

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 晴れの開幕を、一体どんな気持ちで迎えたのだろうか。

 8月18日に15季目が幕を開けたラグビーのトップリーグ。9月20日の19年W杯日本大会開幕まで2年の節目を迎える今季は、選手個々にとってはW杯代表入りへ重要なシーズンとなる。

 どの選手もシーズン序盤から高いパフォーマンスを見せ付け、スタンドで目を光らせるであろうジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチにアピールする必要があるのだが、現状ではその土俵にすら上がれない選手がいる。ともに今春はスーパーラグビーのサンウルブズでプレーした、トヨタ自動車のSH茂野海人とサントリーのSO田村煕(ひかる)だ。

 茂野は昨季までNECでプレー、田村はルーキーイヤーを東芝で過ごし、シーズン後に退部。新天地へ移籍した。ところがトップリーグの規約の第93条には、次のような規則が定められている。



 前所属チーム(JRTL=ジャパンラグビートップリーグ=加盟チームであるか否かを問わない)を退部し、JRTLに加入する他チームへ移籍した選手は、JRTLが届けを受理した日より1年間公式試合には出場できない。ただし、「選手離籍証明書」を所有し、国内外を問わず移籍前の1年間に亘り所属していた前チームから「移籍承諾書」を発行されている選手は所定の選手登録手続完了後、ただちに公式試合出場が認められる。なお追加登録期限(毎年8月末日)を過ぎた場合は、翌シーズンまで新チームでのトップリーグ公式試合出場は出来ない。



 2選手とも、俗にリリースレターと呼ばれる「移籍承諾書」を前所属チームから発行されていないため、今季プレーできるかどうかが不透明になっているのだ。8月31日までに発行されなければ、今季中のプレーはできない。デッドラインは刻一刻と迫っている。

 選手の心情は理解できる。NECは昨季10位、東芝は同9位。本人の退団を含めて昨季よりも戦力ダウンが否めない現状で、今季の大幅なジャンプアップは容易には想像できない。外には漏れ聞こえない環境への不満があるかも知れない。そんな状況で、二度とは訪れない自国W杯でのメンバー入りを本気で目指せるのか。悩んだ末の決断だろう。

 一方で「リリースレター」を出し渋る前所属チームの立場も理解できる。NECにしてみれば、茂野は15年に社内留学制度を利用してニュージーランド・オークランドにラグビー留学へと送り出したチームの大黒柱。東芝にしても、昨季開幕戦での先発を含めて15試合中14試合に出場させた田村を、ゆくゆくはエースに育て上げる構想を持っていたはずだ。少々表現はキツいが、投資に見合った利益を回収できずに他チームに流出させてしまったわけで、できる限りの“抵抗”は競争社会の中では当然の行為と言える。

 トップリーグはプロ選手とサラリーマン選手が混在する。このことがルール作りを難しくさせているのは間違いない。当然のことながら、一サラリーマンの転職は本人の自由。したがって規則に「入団○○年以内の移籍は禁止」などの条項を加えるのは、関係法に抵触する恐れがある。一方でリリースレターが廃止されれば、移籍の頻発を招きかねない。選手の引き抜き行為も横行するだろう。そうなればリーグ全体が混乱し、衰退への道をたどることになりかねない。

 10年、20年先の将来に向けては、完全プロリーグに昇華させ、選手の入団、契約、移籍のルールもプロ野球やJリーグといったプロスポーツに倣ったものに変更することが理想。ただしもちろん、それまで現状のルールを貫き通すのは無理がある。リーグが創設され現行の規則が策定された2003年当時と比べても、日本ラグビーを取り巻く状況は大きく変わった。

 日本協会は1カ月も前の7月18日に、「(中略)規約等についても、時代に即したものとしていく考えであります」との声明を発表している。今後、どの選手、どのチームも泣きを見ないためにも、来季にも現行の規約は改正されるべきと思う。(阿部 令)

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2017年8月20日のニュース