大迫が駆ける日本マラソン夢の道、米で鍛え、ロンドンで弾み、東京で花咲かす

[ 2017年7月7日 09:00 ]

上半身裸で練習する大迫
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 陸上男子5000メートル日本記録保持者で、8月の世界選手権(ロンドン)では1万メートルでの出場を目指す大迫傑(26=ナイキ・オレゴン・プロジェクト)がスポニチ本紙のインタビューに応じた。15年4月にプロ転向し、米オレゴン州ポートランドを拠点とする日本屈指のスピードランナー。20年東京五輪でのマラソン表彰台という目標に向け、トラックで代表の座を狙う今夏のロンドンを大きなステップにすることを誓った。

 日本選手権1万メートルを連覇してから1週間余り。大迫は自らハンドルを握る車で都内の宿泊先から世田谷区の砧(きぬた)公園まで一人でやって来た。

 「ここにはそんなに頻繁には来ないですけど、ちょっと長めに走りたい時とか。ここだけでなく多摩川沿いとかも行きますよ。なかなか芝生はないので」

 参加標準27分45秒以内を記録すれば世界選手権出場が決まる13日のホクレン中長距離チャレンジに向け、芝生の周回コースで1時間走を敢行。ラスト15分はウエアを脱ぎ捨て上半身裸で走り続けた。

 「ぼちぼちといった感じ。暑さもあってなかなか向こう(米国)にいるときと同じ練習というわけにはいかないけど、この暑さの中で今できることをしっかりやっています」

 日本一の選手が公園ランとは意外だが、大迫には国内に拠点がない。15年春に実業団を退社し、ナイキとプロ契約。世界のトップ選手が集うプロジェクトの一員として米ポートランドに拠点を置く。

 「特に何か大きな目標や目的意識を持って(米国に)行ったというより自分の環境をただ求めたらそこしかなかった。自然の流れ。自分の生まれた国から一歩出るということは競技に集中する上では非常に一つのいい方法かなと思っています」

 現地では妻と長女と暮らす。コーチを務めるピート・ジュリアン氏とは通訳なしで問題なくやりとりができるまで英語も上達した。

 「向こうの生活には慣れたし、非常に暮らしやすい。練習ができる環境もある。コーチは非常に信頼できますし、同じ目標を持ってやってくれている。大学や高校の頃とかと比べると、より距離が近くなったという感じ。時に寄り添ってくれるし、もっとこうしたらと言われることもあるし、僕からもこうしたいと言う。いい信頼関係が築けている」

 今年4月にはボストンで42・195キロを初めて経験。瀬古利彦以来日本人として30年ぶりの表彰台となる3位に。20年東京五輪はマラソンで代表を狙う。

 「ボストンが終わって一段落つき、コーチと話してトラックをやることになった。マラソンのためにも。世界選手権が夏の最大の目標なので、そこで(1万メートルで)10番以内を狙う。しっかりとホクレンで標準を切り、またしばらくトレーニングをすれば達成できる」

 箱根駅伝から実業団という日本の定石を取っ払い、海外で自らの道を切り開いている。

 「日本選手権で優勝して(世界選手権を狙う)チャンスをもらうことができたので、なるべくこのチャンスを生かしたいなという気持ちはあります」

 米国発ロンドン経由東京行き――。今夏の世界選手権を踏み台に3年後の東京五輪でメダル獲得を狙う。プロとして海外で孤独に競技を追求する26歳が、世界の陸上界を驚かす可能性は大いにある。

 ▽ナイキ・オレゴン・プロジェクト ナイキ社が陸上中長距離選手の強化を目的に2001年に立ち上げたプロジェクト。拠点は米オレゴン州ポートランドでヘッドコーチは元マラソン選手のアルベルト・サラザール氏が務める。所属選手は大迫のほか、五輪と世界選手権2大会連続2冠(5000メートル、1万メートル)のモハメド・ファラー(英国)、リオ五輪マラソン銅メダルのゲーリン・ラップ(米国)、リオ五輪1500メートル金メダリストのマシュー・セントロウィッツ(米国)ら9人。

 ◆大迫 傑(おおさこ・すぐる)1991年(平3)5月23日生まれ、東京都町田市出身の26歳。金井中で本格的に陸上を始め、長野・佐久長聖高2年時に全国高校駅伝優勝。早大では箱根駅伝で1、2年時に1区区間賞、3年時は3区2位、4年時は1区5位。3000メートルは7分40秒09で、5000メートルは13分8秒40で日本記録を保持。昨年リオ五輪は5000メートルで全体28位、1万メートル17位。今年4月のボストンマラソンは2時間10分28秒で3位。1メートル70、52キロ。

 《編集後記》大迫は男の目線から見ても格好いい。彫りの深い顔立ちに加え、無駄なものが全てそぎ落とされたボディー。そして契約するナイキの製品を着こなすスタイリッシュさはインタビュー当日も見事だった。何よりも、実業団という生活が保障される立場を捨てて家族を連れて渡米した決断に一人の人間としての覚悟を感じる。実力、見た目、生きざまの全てにおいてスター性を兼ね備えた陸上選手はそうはいない。今でも注目を浴びる存在であることには違いないが、世界で結果を残した先に国民的ヒーローへの道が待っていると予感している。

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