デルポトロが見せたスポーツマンシップの一つの形

[ 2017年6月2日 10:30 ]

左膝を痛めて頭を抱えるアルマグロ(左)に声をかけるデルポトロ(AP)
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 これをスポーツマンシップと呼ぶのだろうか。

 スポーツにおける正しい行動、そこで起こった美しい出来事をスポーツマンシップと呼ぶなら、1日の全仏オープン男子シングルス2回戦での出来事は確かにそうだろう。

 ファンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)とニコラス・アルマグロ(スペイン)の試合は、1セットずつを分け合い、第3セットに入った。

 どちらも引かぬ互角の戦い。だが、アルマグロの左膝が突然悲鳴を上げた。第1ゲーム中に膝を気にし始め、直後に長いメディカルタイムアウトを取った。

 治療を受け、左膝にテーピングを施してゲームを再開したが、左右へのフットワークがほとんど踏めない。第3ゲームではもう全くボールに反応できなくなっていた。

 ゲームの途中だというのに、頭を抱えてうなだれるアルマグロ。主審が駆け寄るとついに観念したようにコートに倒れ込んだ。

 デルポトロも心配そうな面持ちでネットを越えて歩み寄り、声を挙げて泣き始めたアルマグロの胸に手を置いて慰めた。

 助け起こしてペットボトルの水を手渡し、さらに、ベンチで涙に暮れるアルマグロの横に腰を下ろすと優しく声をかけた。

「落ち着こう、そして君の家族や赤ちゃんのことを考えるんだ」

「テニスの試合やキャリアよりも今は君の体の方が大事だろう」

 09年に20歳で全米オープンを制したデルポトロも、度重なる手首のケガに泣かされ、引退を考えるほどに辛い時期を過ごしてきた。この日も古傷だという股関節痛でメディカルタイムアウトを取るなど、自らもまだケガとの戦いを続けている。

「彼とはずっと友達なんだ。それがコートの向こう側でケガして、泣いているのを見るのは辛かった。どれほど辛い心境かは、自分も何度も経験しているから分かる。どう声をかけるべきか考えたよ」

 悪魔のように突然訪れるケガという挫折に何度も心を折られ、それを乗り越えた経験が、デルポトロの他人を思いやる優しさとなっている。それもまたスポーツの勝ち負けよりも大切なことかもしれない。

「ニコ(アルマグロ)がすぐに良くなることを願っている。そして早くツアーに戻ってきて欲しい」

 そう語ったデルポトロは、次戦で世界1位のアンディ・マリー(英国)と対戦する。(テニス担当・雨宮 圭吾)

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