ジョニーのズサーッを撮りに行く〜ファンタジー・オン・アイス〜黄金の人さし指伝説

[ 2017年6月2日 10:00 ]

これが噂のジョニー・ウィアー選手のズサーッです
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 【長久保豊の撮ってもいい?話】10席のリンクサイドカメラマン席に希望者は30人弱。くじ引き抽選にあっけなく外れ2階席へ続く階段を上る。公開初日のファンタジー・オン・アイス幕張公演。隣にはアルベールビル五輪の伊藤みどりさん以来、25年ぶりにフィギュアスケートを撮影するという同世代カメラマンがいて何やら所在なげだ。

 豪華な出演者、中でもジョニー・ウィアーを楽しみにしていた。この人は体のラインの作り方が美しいのだ。だからシャッターもバシバシ、パソコンを開き会社への送信もサクサク。その姿に不安になったのだろう「きょうは羽生くんと宇野くんしか撮らない」と豪語していた隣のカメラマンがパソコン画面をのぞき込む。

 「それ何ていう技?」。体をのけぞらせヒザで滑るジョニーの写真だ。

 「これはズサ」(鼻がムズムズする)

 「面白い名前だね」(まんまと引っかかりおったわ)

 思えば昨年のNHK杯、羽生選手のSPで絵になる場面を話し合っていたカメラマンたちの「ズサ」という言葉を技の名前と思い込み赤っ恥をかいた私である。このアルベールビルの亡霊に同じ恥をかかせたところで罪にはなるまい。

 「送った(電送した)方がいいの?」

 「当たり前だろ。『ズサを決めるジョニー・ウィアー選手』って説明つければ会社も大喜びさ」(鼻が伸びだす)

 「あっ、でも赤い靴の裏が写ってないとだめだからね。ジョニーだからね」。ここまで言うと後ろのカメラマンが噴き出す。まずい。

 「そもそもはロシアのアレキサンドル・ズサーという選手が1984年に…」

 ピノキオの鼻は極限まで伸びたが、もはや彼は聞いちゃいなかった。

 彼も私も36枚のフィルム全盛時代にフィギュアスケートを初めて撮った。演技開始前の静止で3枚、フィニッシュ時には最低10枚は残したいから残りは23枚。これで演技要素のすべてを記録するのは無理がある。男子ならジャンプ、女子ならスパイラルと写真は決め打ちだった。ヒザが割れていたり、顔が歪んでいたり「その写真は使ってくれるな」と思ったところで他に写真がないのだから抗いようがなかった。

 デジタル大容量メディア時代の今は違う。記録として転倒や失敗シーンを求められることはあっても、それを小さく追いやるような別の美しいシーンが撮れる。おそらく今はいい時代。

 大トリ登場の羽生結弦選手はわれわれに1000回以上のシャッターを押させた。バラード1番の後のアンコールでは観客を煽った後の指さしポーズ。あれはヤバイね。破壊力というより殺傷力だね。指さされた客席あたりのお客さん、息してなかった。

 ジュリー(沢田研二)の「君だけに〜」の黄金の人さし指か。都市伝説かもしれないけれど、あまりにも失神者が続出するものだからジュリーは指さす方向と目線の向きを少しずらしていたとか。羽生さんもそろそろ考えた方がいいかも。

 その後、「ズサーッ」も見せてくれたけど…。ポテっと。まあいいか。(写真部長)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれ。部下には強く上にはまるで弱い写真部総司令。「金をかけずに写真撮れ」が最近の口癖。

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