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過去の世界記録はすべて抹消も 重大な岐路に立たされた陸上界

フローレンス・ジョイナー
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 【藤山健二の独立独歩】欧州陸上競技連盟が先日、ドーピング対策の一環として現在認定されている世界記録をすべて抹消し、一度白紙の状態に戻してから再出発するという案を提示した。今後は公式の国際大会で樹立され、かつ大会前の定められた期間内に定められた回数のドーピング検査を受けた場合のみ世界記録として公認するという。「疑わしきは罰する」どころか、「疑わしくない」記録まで一緒くたにして消し去ってしまおうというこの案は当然、現世界記録保持者らから猛反発を受け、8月の国際陸連(IAAF)理事会で承認されるかどうかは微妙だ。だが、IAAFのセバスチャン・コー会長は「正しい方向への第一歩」と評価しており、トップ選手の中から再びドーピング違反者が出れば、反対の声を押し切ってでも実行される可能性が高い。

 過去の記録に疑いの目を向ける人が多いのは事実だ。たとえば女子100メートルの世界記録10秒49は88年にフローレンス・ジョイナー(米国)が樹立して以来、29年間も破られていない。近づいた選手すらおらず、今後もおそらく誰も破ることはできないだろう。当時のジョイナーは確かに速かった。10秒54で金メダルを獲得した88年のソウル五輪は実際に目の前で見たが、走っているというより体が宙に浮いているような感じで、特に中盤からの加速は異常だった。五輪後に来日した時は間近で取材したが、全身筋骨隆々で目つきは鋭く、うっすらと口ひげが生えていたのを覚えている。同じソウル五輪で世界記録を樹立した男子のベン・ジョンソン(カナダ)の薬物使用が発覚したことで当然ジョイナーも疑われたが、検査結果は陰性だった。その後もジョイナーの周辺では疑惑が絶えなかったが、翌89年に突然現役を引退。98年に38歳の若さで急死してしまったので、真相は永遠に謎のままだ。

 今でも彼女の記録を疑う人は多い。当時のレースを見ていた多くの人が同じ思いを抱いたはずだが、あくまでもそれは推測であって、事実として証明されているのは「陰性」という検査結果だけだ。旧ソ連や旧東ドイツ選手の当時の記録も同じで、検査が「陰性」だった以上、今になって何の証拠もなく一方的に記録を抹消するという判断が果たして正しいのかどうか。

 いつになってもなくならないドーピング違反にIAAFが頭を悩ませているのはよく分かる。どこかで一線を引き、旧世界記録と新世界記録に分けて考えるべきだという声が以前からあることも知っている。だが、だからといって「すべての記録を消し去る」という極論には賛同できない。IAAFが最終的にどういう決断を下すのか、選手たちが今後どういう反応を示すのか、陸上界は今、重大な岐路に立たされている。 (編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

[ 2017年5月16日 10:30 ]

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